競技を引退した後は、後進の指導や競技の研究などには関わるものの、自身はネクタイ姿で過ごして、トレーニングウェアや記念のカップ、トロフィーなども目に触れないように生活してきたという。
「ネクタイをすると、それに寄りかかれるような感覚があって、むしろ楽だと感じたんです。20年近く現役を続けたので、普通の服を着るということすら新鮮でした。トロフィーなどが目に触れない生活をしているのは今も同じです。唯一、玄関には1969年のソウル国際で優勝した時のカップのトロフィーが置いてあるのですが、これは家内が置いたものです。玄関にちょうどいいと言って、トロフィーの上に植木鉢を置いたんですよ(笑)。私自身はトロフィーを飾ることには興味がないからいいのですが、こんな活用法もあるのかと家内の発想に驚きました。彼女はスポーツには興味のない人間で、家でもスポーツの話題はありませんから私にとってはすごく気が楽です。玄関のトロフィーは、今はカギなどを入れる小物入れになっています」
その気負わない自然体が長く一線で活躍できた理由だったのかもしれない。日本でオリンピックのマラソンに3大会連続で出場したのは、現在に至るまで宇佐美さんと君原さんの2人だけだ。
『週刊ポスト』(7月28日発売号)では、国民の記憶に残る五輪メダリストたちの「その後」を特集している。スターたちの人生が、檜舞台を降りてからも波瀾万丈であることがよくわかるエピソードが紹介されている。