出会い系アプリは色々あるけれど、僕はそれらを使わない(イメージ、Sipa USA/時事通信フォト)
とある詐欺事件の取材中、後に逮捕される女性被告にSNS上で勧誘を受けていた、関西地方在住の自営業・盛田守さん(60代・仮名)のアカウントを見つけた。女性被告とフェイスブック上の出会いコミュニティで接点をもっていた盛田さん自身は、これといった「被害」に遭うことはなかった。だが、少なくない数の男性がフェイスブック経由で女性被告に呼び出され、結婚の予定どころかガールフレンドさえいないのに、『未来のために』などと囁かれて結婚指輪を買わされていた。誘惑され、一夜を共にした男もいるとされているが、詳細は定かではない。
被害には遭わなかったものの、いわくつきの女性と接点を持っていたことに臆することなく、盛田さんは今もフェイスブック上で熱心に「婚活」を続けている。怖くないのかというこちらの驚きを察したのか、「非生産的って簡単にいうけどさ」と前置きした上で、自身の置かれた状況から、もうフェイスブックを使う以外に方法が残されていないのだと訴える。
「若い時に家業が傾きかけ、必死で立て直して気がついたら40代後半でした。慌ててお見合いをしたり、結婚相談所にも行きましたがいい人と巡り会えなくてね。当時は怪しいなと思いながらテレクラにも行ったし、パカパカ携帯(ガラケー)で出会い系サイトもやりましたよ。何年か前までは、出会い系アプリにも課金したり、有料お見合いパーティーにも参加して、とにかくやれることはやったんです」(盛田さん)
家業を継いでいるため、盛田さんは中小企業の社長でもあるがさほど裕福ではなく、加齢と共に髪の生え際も後退しつつある。鏡を見るたびに「もうすぐ完全な老人になる」という危機感に苛まれ、もはや一般的な男女が出会いを求め合う現場は、自分にはそぐわないと感じ始めた。そんな時に知ったのがフェイスブック上の出会いコミュニティだった。
アプリなどであれば、いくらこちらから積極的にアプローチしても返信は来ず、寄せられるのはセクシーな外国人アカウントから送られてくる怪しげな詐欺サイトへの誘導ばかりだが、フェイスブック上の出会いコミュニティであれば、オープンな空間でやりとりができる。少なくとも無視される機会は減り、コミュニケーションが取れる可能性が高まる。当然、盛田さんに反応をよこすアカウントのほぼ全ては詐欺アカウント、スパムアカウントに違いないのだが、盛田さんはそれでも「可能性は残っている」と、少ない期待に胸を膨らませる。
「私って面食いなんです。女性とのやりとりも結構できますし、まず容姿が第一条件ですね。もちろん、私の年齢的な問題はありますが、それでも年上が好き、という方がいらっしゃるかもしれない」(盛田さん)
盛田さんの誇る女性遍歴を振り返ると、やはり偏っていると言わざるを得ない。一般的な「お付き合い」をした経験がなく、やりとりをした女性は全て、出会い系サイト上のアカウントか、もしくは婚活パーティーなどにきていた人たちである。こうしたサイト上や場所における、目的がはっきりしている女性たちの行動は、一般的な「出会い」とは大きく意味合いが異なるはずなのだが、盛田さんはそうした女性たちの振る舞いを「普通」と思っているようだ。例えば、どう考えてもお世辞な「素敵ですね」という返信を、盛田さんはすぐに「脈あり」と判断する。そういう具合だから、いくらフラれようと、妙な自信が揺らぐことはなく、今もなお容姿端麗で若い女性の投稿にのみ返信し続けている。
そして、盛田さんが目を止める美女たちのアカウントの中に、本気で出会いを求めている「本物の」女性のアカウントが存在するはずだと吟味を続ける。その品定めのテクニックを教えてもらった。
「これは、女性の顔が東南アジアの人ですので、日本人になりすましている。こっちのアカウントは、ラインに誘われて、ウェブで使えるギフトカードを買わされる……私くらいになるとわかっちゃうんです」(盛田さん)
得意げに、フェイスブック上の怪しいアカウントについて説明を始める盛田さん。非生産的だと知りながらも続ける理由は「反応がもらえるから」と小声で漏らす。
「こんな初老の男に声をかけてくれる人って、もうほとんどいないじゃないですか。相手が詐欺師の可能性があろうと、こちらに反応してくれているっていうだけで、ちょっとホッとするところはあると思いますよ」(盛田さん)
騙されたふりをしながら、数少ない「かまってくれる人」との交流を楽しんでいる、というのが本音だろうか。自分自身が若いときならともかく、高齢になっても若くて美しい女性を現実のパートナーに迎えたいという願いを持つだけなら自由だろう。それを、加齢と共に、自分には縁がないことと受け入れられない葛藤を、詐欺師に利用されることだけは避けて欲しいものだ。