(撮影:小倉雄一郎)

『白い濁流』のテーマと私生活での経験を絡めて語った(撮影:小倉雄一郎)

 有名な“トロッコ問題”を彷彿させるジレンマだが、もちろん単なる思考実験の世界だけの話ではない。日常生活でも似たようなジレンマに遭遇することは多々あるはずだ。伊藤淳史は子供と接する際に、“正義のための悪”と似たような場面に遭遇して良心の呵責を感じることもあるという。

「例えば公園で娘が滑り台の順番に並んでいると、たまに知らない子が割り込んでくることがあるんですよね。全然関係ない子供なので僕が直接怒る筋合いもないですし、でも順番を守らなきゃいけないということは伝える必要があると思うので、そういう時は娘に『滑り台の順番はちゃんと守ろうね!』って少し大きめの声で言ったりします。するとその知らない子がちゃんと後ろに回って並んでくれることがある。

 ただ、娘から『ねえパパ、なんで順番を守ってない子に注意しないの?』と言われることもあって、そうするとなかなか答えられないんですよね。そういう時は『パパは順番を守ってくれる子が好きだよ』と言うんですけど、答えになってないじゃないですか。本当は順番を守らない子を注意すべきかもしれないので。そういうことで日々悩んだり、しっかりと説明できないことで罪悪感を抱いてしまったりすることがあります」

 ドラマが提起する問題は、身近なところにも潜んでいる。伊藤淳史が続ける。

「今回の作品では食品添加物のアレルギーの話が出てくるんですが、食べ物をはじめ生活を取り巻く色々な場面で危険が潜んでいるということは、自分が親になってより肌身に感じるようになりました。食べ物が原因で蕁麻疹が出てしまうこともあるし、公園で遊んでいたら怪我をすることもあるし、そういう食や環境の安全性はとても大切だなと。やっぱり人間は絶対に何かを食べないと生きていけないですから、どういうものを食べるのが子供にとって良いことなのか、そういう部分も今回の作品を通じて考えるようになりました。

 それと、今はコロナ禍で世の中がとても大変な状況にありますが、そうした状況だからこそ、ドラマを観る時間はドラマの世界にどっぷりと浸かって欲しいと思っています。僕らもこれ以上ないくらい緊張感を持って感染症対策に取り組みながら撮影を行ったので、コロナ前に比べると『制限がある中で、それぞれの持ち場で100点以上を目指そう』という意識がより高まっていると思いまし、ぜひドラマを楽しんでいただけたら嬉しいです」

『白い濁流』はコロナ禍における日常生活をあらためて見つめ直すきっかけにもなりそうだ。

◆取材・文/細田成嗣(HEW)

ドラマでは薬学を志す研究者・好並一樹を熱演(写真提供:NHK)

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