国内

甘糟りり子さんが振り返るバブル「日本に悪役になれるエネルギーあった」

日経平均株価は史上最高値を記録した(写真/時事通信フォト)

1989年12月、日経平均株価は史上最高値を記録した(写真/時事通信フォト)

 今のコロナ禍では考えられないが、約30年前、日本中が活気に満ち溢れ、夜の街にはネオンが朝まで照らされ、そして希望という“明かり”が見えていた時代があった――。「バブル」とはいったいどんな時代だったのか? 今年6月、エッセイ『バブル、盆に返らず』(光文社)を上梓した作家・甘糟りり子さんが振り返る。

 * * *
 日本のバブル時代というとジュリアナ東京を思い浮かべる人も多いだろうが、正確にいえばあれはバブル時代ではない。

 ピタピタの服を着た女性たちが、単調な電子音に合わせて羽のついた扇子を振り回すあの様子はバブルが終わった後のものだ。恐らくどこかのテレビ番組が間違えてバブル時代の回想場面として取り上げ、いつの間にかそれが定着したのだと思われるが、時代の経験者としてはずっと収まりの悪い気持ちがあった。

 1986年12月に始まったバブル景気は1991年2月で終わっている。ジュリアナ東京がオープンしたのはその年の5月で、人気になったのはさらにその後。あの奇妙な景色が産まれたのはバブル時代とはタイムラグがある。

『バブル、盆に返らず』というエッセイ集の後書きでそのことに触れたら、思いの外方々から反応があった。「自分もそう感じていた」「やっぱり違うよね、あれは」との声は多かったが、「でも、弾けた後にも街にはバブルの空気は残っていたじゃない」という反論もあった。バブル時代について、みんな「なんとなく派手派手しい」といった大雑把なイメージしかないと気がついた。受け止める人によって、80年代をイメージしたり、90年代前半を思い出したりする。

サラリーマンが、株・投機マンション・外車に夢中に

 そもそもバブルっていったいなんだったのだろうか。今一度振り返ってみた。

 そもそもの発端は1985年9月のプラザ合意だった。ドル高を是正するために、米、英、西独、仏、日本の代表者がニューヨークのプラザホテルに集まった。これで一気に円高ドル安が進み、1ドルが約250円から一年後に約150円となる。それにより国内の輸出企業は大打撃を受け(注・円高不況)、政府は対応するために積極財政をとる。それによって世の中に出回った資金が不動産と株に集中した。同年、日本電信電話公社が民営化されNTTとなった。日航機墜落事故が起こった年でもあった。

 銀行は不動産を担保にどんどん金を貸した。誰彼構わず借りるように促したといっていいと思う。そして、不動産の価格は下がることはない、上がり続けると信じられていた。株価も同様だった。

 当時、私は二十代だったが、同世代のサラリーマンが株を買い、投機目的のマンションを買い、外車(注・輸入車のことです)を乗り回している、なんてことがめずらしくはなかった。サラリー「マン」と書いたが、男女雇用機会均等法が制令されたのは1985年で、施行されたのは翌年。施行されたといっても、効力が少しでも出てきたのはずっと後のこと。バブル時代、女性が男性と同じ職務に就けるケースはごく稀で、ほとんどが「お茶汲み」と呼ばれる補助的な役割だった。

 女性の地位は低かったが、日本経済は右肩上がりだった。1987年、安田火災海上がゴッホの「ひまわり」を50数億円で落札。1989年10月、三菱地所がニューヨークの「ロックフェラーセンター」を1200億円で買収する(注・運営会社は1995年に破産)。アメリカの象徴を買収した日本の成金ぶりが悪評を買ったが、日本に悪役になれるだけのエネルギーがあったともいえる。若い世代の方々は日本にそんな勢いがあったとは信じがたいのではないだろうか。

 不動産や株に実態のないまま現実以上の価値がつき、歪に上がり続け、同年12月29日ついに、日経平均株価は史上最高値の3万8957円をつける。

関連記事

トピックス

9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
オンラインカジノを利用していたことが判明した山本賢太アナウンサー(ホームページより)
フジテレビ・山本賢太アナのオンラインカジノ問題で懸念される“局内汚染”「中居氏の問題もあるなかで弱り目に祟り目のダメージになる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン