ゴールポストを動かす
東:コロナの危機って、いわゆる、生物学的な危機から社会の危機にだんだん移ってきてると思う。国民と政府の信頼関係も失われているし、国民と医療の信頼関係もかなり壊れてきている。
三浦:「最後の宣言にしたい」という言葉を、いったい何回聞いたでしょうか。ワクチン接種で高齢者の致死率が低下すれば、そこを妥協点として社会を正常化できると私は思ってました。しかし、ゴールポストはどんどん動かされ、国民の7割が接種しても不十分だと。全年代が9割接種しないとだめだという意見さえ出てきています。
東:それは医者の性なのかもしれないですね。医者はゴールポストを動かすのが仕事なところがある。平均寿命が80歳になったら、よし、次は85歳だ、次は90歳だと。きりがないんですよね。
小林:だから、「ワクチン打ってもマスクはずすな、会食するな」って言われた時点で、みんなブチ切れるべきだった。
東:大事なのは、いまはもう、1年前と違って政治家や専門家の話をみんな聞かなくなっているということです。それに対して政治家や専門家はどうするのか。ボールは彼らの手にある。
自粛路線を続けてもいいけど、法的強制力がないんだから国民は無視するだけ。その現実を認め、今後は病床拡大など別の方向に舵を切るしかない。欧米に比べると遅れると思うけど、日本も日常に戻るしかないでしょう。
小林:わしはずっと日常だけどね(笑)。だいたい、人の力でウイルスをコントロールできると思っているのが、おこがましいんだよ。
三浦:私も日常に戻ることにします。
【プロフィール】
東浩紀(あずま・ひろき)/1971年東京都生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。株式会社ゲンロン創業者。近著に『ゲンロン戦記――「知の観客」をつくる』(中公新書ラクレ)。
小林よしのり(こばやし・よしのり)/1953年福岡県生まれ。漫画家。近著に『ゴーマニズム宣言SPECIAL コロナ論3』(扶桑社)。井上正康氏との共著『コロナとワクチンの全貌』(小学館新書)が9月30日発売予定。
三浦瑠麗(みうら・るり)/1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。株式会社山猫総合研究所代表。近著に『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)
※週刊ポスト2021年10月8日号