この元参戦兵の出廷は、早ければ今年11月に開かれる国家賠償訴訟の口頭弁論で実現する見込みだが、懸念も多い。村山氏が続ける。
「保守団体や活動家、参戦軍人会による猛反発や妨害が懸念されます。過去にも、韓国軍のベトナムにおける所業を報じた新聞社が参戦軍人会の襲撃を受けたり、聞き取り取材に当たったジャーナリストへの脅迫事件が起きている。元参戦兵が証言台に立つことは、とても勇気のいることです」
2000年6月、韓国リベラル紙『ハンギョレ新聞』本社が、迷彩服姿の男2000名に包囲、襲撃される事件が発生した。「韓国軍ベトナム蛮行」の検証記事を掲載した同社発行の週刊誌に対する抗議活動だったが、暴徒化した一部が社屋に侵入、破壊行為や放火を行なった上に幹部を監禁、多くの負傷者を出す暴動に発展した。事件の中心にいたのは、ベトナム参戦軍人会「枯葉剤戦友会」メンバーだった。
「すでに参戦軍人の多くが高齢となり、近年、こうした過激な活動はなりを潜めるようになりました。だが、ベトナム戦争から半世紀が経ち、ネットに様々な情報が溢れる社会になっても、韓国軍の非人道的行為を話題にするのは“タブー”とする向きが多い。今回、証言する予定の元参戦兵が出廷要請を直前で拒否することも考えられます」(韓国紙記者)
韓国政府は昨秋の第1回口頭弁論で“虐殺の立証が不十分”“虐殺は韓国軍に扮した南ベトナム解放民族戦線が起こした可能性がある”などとし、国家賠償請求の棄却を求めた。韓国政府が史実とどう向き合うつもりなのかとともに、裁判の行方が注目される。