その時はまだ、僕の症状はそれほど大したことがなかったので、おとなしく待つことにした。保健所からの連絡は早く、その日の午後に電話が入った。感染がわかった経緯や症状などを、担当の保健師に事細かに聞かれる。その上で保健師は告げた。
「あなたはホテルでの隔離対象になります。宿泊先を手配しますので、それまで自宅から外に出ずに待ってください」
隔離用のホテルに入ったら、医療も受けられるのだろう。これで一安心と思った。だが、それは大きな勘違いだった。
保健所は「こちらも手が回らないんです」
ホテル手配の連絡は、翌日も翌々日も来なかった。その間に僕の症状は次第に悪化していく。咳が激しくなり、のどが痛む。血液混じりの痰が出る。熱も上がる。ちょっと不安になり、こちらから保健所に電話をする。
「隔離用のホテルはまだですか?」
「まだです。もう少しお待ちください」
「解熱剤がもうないんです。クリニックには来るなと言われるし、どうしたらいいんですか?」
「同居の家族も隔離対象になりますから…誰か同居していない方で、薬を取りに行ってもらえるような人は近くにいませんか?」
そんな都合のいい人がそうそういるわけがない。そもそも自分がコロナだから、薬を持ってきてもらうのも申し訳ない。結局、薬は入手できなかった。
そのまま3日が過ぎた。熱がさらに39度まで上がり、ベッドのシーツが汗でぐっしょりになる。体がふらつき、まともに立てない。いよいよヤバいんじゃないか? 再び保健所に電話する。
「前も電話したんですけど、ホテルはまだですか?」
「まだ手配できないんです。もう少しお待ちください」
「もう少し、もう少しって、いつまで待てばいいんですか?」
「こちらも手が回らないんです」