ライフ

自立と恥じらいを体現し、30年続いたブルマ文化の功罪

当事者たちの声は無視され続け、女子体操服としてのブルマはなぜ30年も続いたのか

当事者たちの声は無視され続け、女子体操服としてのブルマはなぜ30年も続いたのか(イメージ)

 オリンピックの影響力や発信力は大きく、この夏の東京五輪では、旧態依然とした発言や行動が明るみに出た。一方で、五輪が新しい価値観を広めた面もある。たとえばドイツの女子体操選手はレオタードの着用を拒否し、足首まで覆うユニタードを着て競技を行った。<自分たちが着たいものを着る>。この、当然ともいえる価値観を広く世界に知らしめたのは、オリンピックの一つの成果だったのではないか。昨今、女性アスリートへ向けられる性的視線や画像が問題視されるようになっている。

 振り返れば日本の女性たちには、トップアスリートでなくとも、<着たくないもの着させられていた>時代があった。学校で義務付けされていた「ブルマ」である。すでに過去とのものとなったが、ブルマは、導入時から性的なまなざしにさらされてきたと、『ブルマーの謎 女子の身体と戦後日本』(青弓社)の著者である山本雄二関西大学教授はいう。なぜそういうものが学校教育の場に導入され、30年も存続したのか。ブルマの謎を追っていくと、戦後の学校体育が辿った紆余曲折と、今なお続く一つの「女性観」「身体観」が浮かび上がる。女性アスリートとジェンダーの問題が論じられるようになったいま、改めて負の歴史から学ぶことがあるのではないか。山本教授に話を伺った。

 * * *

背景にあったのは、1964年東京オリンピックの惨敗

──驚くのは、「ブルマ」がなぜ学校に取り入れられ、30年も続いたのか、その理由を説明できる人が教育の現場にほとんどいなかったという事実です。学校の強い意思で導入されたわけではないものに、女性たちは嫌な思いをさせられてきた。複雑な思いを抱きました。

山本:今から15~20年前なのですが、私のゼミの女子学生には、ブルマをはき続けてきた学生と、ブルマを途中からはかなくなった転換期の学生と、ブルマを最初からはかなかった学生が混在していました。学校の体操着は学校が指定するものですから、学校が意思決定しているはずです。どういう経緯でそう変わっていったのか、すぐにわかるだろうと思って調べはじめたら、これがまったくわからないんです。

──山本先生が教育委員会に問い合わせても、怪訝な顔をされ、まともに取り合ってもらえない。「どうして人から訊かれて不愉快になるものを導入し、三十年あまりも積極的に維持してきたのか。疑問はますます募る」と書かれています。

山本:ブルマは先の東京オリンピックが終わった後、1965年頃から急速に広がっていますから、何か組織的な力が働いたはずだ、と見込みを立てて調べていったんです。が、教育委員会にはイヤな顔をされますし、現場の先生も理由を知らないんです。そこで図書館にこもって、女子体育系関連の雑誌を片っ端から読んでいくことになりました。

──そこで行き当たったのが、全国の中学校が組織する「中学体育連盟(中体連)」の金銭事情でした。中体連は、1946年の東京オリンピックを契機に、ある「転向」を迫られ、巨額の資金が必要になったんですね。

山本:あの東京オリンピックで日本は大勝利をおさめたと思っている人がけっこういると思いますが、当時の体育関係者にとっては、屈辱の1964年だったんです。というのは、日本のお家芸とされていた「水泳」と「陸上」で惨敗を喫したからです。柔道やバレーボールで金メダルを取っていますが、どちらも、東京オリンピックで初めて採用された競技で、参加国も少なかったんですね。この惨敗によって、「中体連」が変貌するのです。

関連記事

トピックス

大谷翔平選手と妻・真美子さん
《チョビ髭の大谷翔平がハワイに》真美子さんの誕生日に訪れた「リゾートエリア」…不動産ブローカーのインスタにアップされた「短パン・サンダル姿」
NEWSポストセブン
石原さとみ(プロフィール写真)
《ベビーカーを押す幸せシーンも》石原さとみのエリート夫が“1200億円MBO”ビジネス…外資系金融で上位1%に上り詰めた“華麗なる経歴”「年収は億超えか」
NEWSポストセブン
神田沙也加さんはその短い生涯の幕を閉じた
《このタイミングで…》神田沙也加さん命日の直前に元恋人俳優がSNSで“ホストデビュー”を報告、松田聖子は「12月18日」を偲ぶ日に
NEWSポストセブン
高羽悟さんが向き合った「殺された妻の血痕の拭き取り」とは
「なんで自分が…」名古屋主婦殺人事件の遺族が「殺された妻の血痕」を拭き取り続けた年末年始の4日間…警察から「清掃業者も紹介してもらえず」の事情
(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
熱を帯びる「愛子天皇待望論」、オンライン署名は24才のお誕生日を節目に急増 過去に「愛子天皇は否定していない」と発言している高市早苗首相はどう動くのか 
女性セブン
「台湾有事」よりも先に「尖閣有事」が起きる可能性も(習近平氏/時事通信フォト)
《台湾有事より切迫》日中緊迫のなかで見逃せない「尖閣諸島」情勢 中国が台湾への軍事侵攻を考えるのであれば、「まず尖閣、そして南西諸島を制圧」の事態も視野
週刊ポスト
盟友・市川猿之助(左)へ三谷幸喜氏からのエールか(時事通信フォト)
三谷幸喜氏から盟友・市川猿之助へのエールか 新作「三谷かぶき」の最後に猿之助が好きな曲『POP STAR』で出演者が踊った意味を深読みする
週刊ポスト
ハワイ別荘の裁判が長期化している(Instagram/時事通信フォト)
《大谷翔平のハワイ高級リゾート裁判が長期化》次回審理は来年2月のキャンプ中…原告側の要求が認められれば「ファミリーや家族との関係を暴露される」可能性も
NEWSポストセブン
今年6月に行われたソウル中心部でのデモの様子(共同通信社)
《韓国・過激なプラカードで反中》「習近平アウト」「中国共産党を拒否せよ!」20〜30代の「愛国青年」が集結する“China Out!デモ”の実態
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《自宅でしっぽりオフシーズン》大谷翔平と真美子さんが愛する“ケータリング寿司” 世界的シェフに見出す理想の夫婦像
NEWSポストセブン
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(時事通信フォト)
《潤滑ジェルや避妊具が押収されて…》バリ島で現地警察に拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26) 撮影スタジオでは19歳の若者らも一緒だった
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
「週刊ポスト」本日発売! プロ野球「給料ドロボー」ランキングほか
NEWSポストセブン