【木下は、ヤクザ現役時代の回想シーンでは、サングラスに黒スーツで超コワモテ。14年後の現在のシーンでは、白髪の小さな内装業者社長を“弱々しく”演じている。】
木下:大阪生まれ大阪育ちの僕には、関西弁での極道役は得意分野でした(笑)。今回のドラマで少し難しかったのは、ヤクザ現役時代の迫力や本物感と、引退後のヘタレさを、振り幅を広く演じるとともに、同じ人間だからあまりギャップがありすぎてもいけない。そのバランスでしたね。『ムショぼけ』は、元ヤクザたちの哀愁をユーモアに描いているので、ヘタレさをより強調することも意識しました。
沖田:ほうかさんや主演の北村さんの見事なお芝居が、私が作った原作小説の言葉や文字を、映像で超えてくださいました。『ムショぼけ』が、僕の手から離れた瞬間。生んだ子を、みなさんが育ててくれて、最高のものとして視聴者に届いている。もう感謝しかありません。
【ヤクザのかっこ悪いところや哀愁漂う姿にスポットを当てていることに、木下はどう感じているのか】
木下:我々は、1990年代からVシネマ界で、散々ヤクザのバイオレンスものを作ってきていたんですが、当時から僕は演じながらも「こんな激しい奴、実際にはおらんやろ」って思ってましたよ(笑)。ヤクザの実像って、そないドンパチはしませんよね。
沖田:そうなんですよ。現実にマシンガンで人を何人も殺めたら、一発で死刑ですよ。誰も彼も死刑になってては、そのうち誰もいなくなってしまう。そういう映画やドラマは多いですが、ずっとなんかちゃうなと思ってました。ヤクザだって、人間だから恋もするし、ドジもするし、子や孫はえこひいきしてかわいがる。そういう人間らしさを描きたかったんです。
木下:従来のヤクザ像の方が虚像やったように思うんです。だから、今回は本当にオファーをもらって、本を読ませてもらったときから「こういうヤクザもんがやりたかってん。こういうことですやん!」って、気分が高まりましたよ。