山田教授が続ける。
「“機械翻訳信者”なんていません。むしろ機械翻訳を完全には信用していなくて、さまざまな限界もわかっています。そもそも機械翻訳にできることをちゃんと見極めた上でチェックする人たちというのは、機械翻訳以上の翻訳スキルを持っていなければならない。だから『機械翻訳を使ってはいけない』ではなく、『機械翻訳を正しく使わないと間違ってしまう』という認識が世の中にもっと広まらなければならないと思っています」
つまり、機械翻訳は翻訳業の重要性がより一層増すような実用的なツールなのだ。
むろん将来的に人工知能が人類の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)なるものが実現し、機械翻訳があらゆる「人間の翻訳作業」に取って代わる可能性はなくはない。だが現時点ではまだ未来の話であり、そもそもAIが人間を超えるシンギュラリティ自体が空想上の産物だと指摘する見方もある。
では近未来に実現可能な機械翻訳の新たなブレイクスルーとしてはどのような進展が考えられるのだろうか。山田教授はこう予想する。
「“マルチモーダル学習”という、複数(マルチ)の様式(モーダル)を組み合わせた機械学習を利用すると、次のブレイクスルーをもたらすことになるかもしれません。
マルチモーダル学習を利用すると、言葉以外の情報も含めて言葉がどういうものか学習できるようになるので、より人間的になっていくんです。今年の初めに非営利団体のOpenAIが、テキストを入力するとその通りのイラストをかなり忠実に生成するDALL-E(ダリー)というAIを発表しました。反対に、画像からキャプションを生成するというAIもあります。言葉を他の情報と関連づけていくこと自体は、技術的にはすでに可能なんです」