全国市長会長を務める福島県相馬市の立谷秀清市長が、連合の芳野友子会長について「美人会長」と発言(10月28日)。これが容姿に着目したセクハラだと指摘され、「軽率な発言だった」と謝罪した。
この時代、人の外見には言及するべきではない。そう語るのが、『もてない男』(ちくま新書)の著者でジェンダー論に詳しい作家・比較文学者の小谷野敦氏だ。市長の発言を「下劣」と断じる小谷野氏に、その理由を聞いた。
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全国市長会長が公職にある女性を「美人」と呼ぶのはマナー違反です。人間の根幹には性欲があるという逃れようのない事実があり、公の場で「美人」と言うのは“あなたに性欲を抱いている”と公言したに等しい。いわば自分の下半身を露出したようなものです。
「別にそれくらい良いじゃないか」と主張する人は、まずTPOが理解できていない。
仮に仕事の場で、「美人ですね」「今日はキレイだね」などと言ったとします。周りに人がいたら公の場となり、言われた本人も周囲も困惑する。相手と2人きりだったら別の意味が生じてしまう。どちらにせよ言うメリットがないんです。
どうしても「美人だ」と言いたければ、男同士で会話をすればいい。あるいはバーやクラブに行って、プロの女性を相手に言えばいいんです。
時代はどんどん変わります。例えば落語でも、現在は娼婦と遊ぶことを題材にした「廓噺」をするのが難しくなりましたし、女性の外見を揶揄するような物語は受け入れられなくなっている。
昔の感覚で作られたものは廃れていくものです。不朽の名作と言われる川端康成の『雪国』も、芸者とセックスして喜ぶ物語です。将来的にこうした作品の評価が見直される可能性すらあるなかで、市民の代表たる市長がああした発言をするのは、不適切と言うほかありません。
※週刊ポスト2021年11月19・26日号