国内

選挙出口調査員の嘆き「私は不満の捌け口階層になってしまったのか」

選挙とその報道への不満を持つ人は少なくない(イメージ、時事通信フォト)

選挙とその報道への不満を持つ人は少なくない(イメージ、時事通信フォト)

 国民の不満をそらすために新しい敵をつくるのは、どこの国でも体制が延命を図るための常套手段として過去も現在も行われてきた。いま抗議の声をあげるべき相手を見失い、争っても軋轢しか生まない人に向けて不満をぶつける場面が増えている。コールセンターのオペレーターに直接、関係がない不満を言い続けるのは典型的な例だろう。新型コロナウイルス感染症拡大によって設定された給付金のコールセンターでも、電話口のオペレーターに対して、政府や行政への怒りをぶつける人が少なくない。だが、不満をぶつけられている彼らはたいてい、窓口業務のためだけに雇われた非正規労働者だ。ライターの森鷹久氏が、選挙投票日の出口調査をした非正規労働者から、不満の捌け口となった、あの日の体験について聞いた。

 * * *
 衆議院議員選挙投票日だった10月31日、千葉県在住のフリーター・徳田健司さん(仮名・50代)の姿は、関東のとある投票所にあった。投票を終えたと思われる人々に声をかけ、誰に、そしてどの政党に投票したのかを聞く「出口調査」の仕事をするためだ。

「私は某新聞の調査員として現場に派遣されましたが、新聞社名を出すだけで怒鳴られたり小突かれたりしました。嘘を書くな、世論操作するな。そんなことを言ってくる人は少なくない」(徳田さん)

 徳田さんは昨年まで、都内の飲食店チェーンで複数店舗を管理するマネージャーとして働いていたが、コロナ禍の影響をまともに受け、会社自体が実質的な休業状態に陥った。そして、ほとんど会社の一方的な押し付けのような形での「退職勧告」に応じた。

 以後、派遣会社に登録し、単発の仕事をこなしながら、なんとか生きていくための日銭を稼ぐ状態が続いているという。

「再就職と言っても、同じ(飲食系の)業界はコロナの影響でとても無理。年齢も年齢だし潰しも効かず、コンビニやスーパーに履歴書を送っても面接にすら進めない。この年で派遣の単発バイトをせざるを得なくなるとは、夢にも思っていませんでした」(徳田さん)

 出口調査の仕事は、複数登録していた派遣会社のうちの一社からもたらされた。投票日の調査以外に、2日間の事前研修を受けることが必須で、実働は3日間で報酬は3万円ほど。倉庫内作業やイベント整理などの単発バイトよりもいくらか割はよく、希望者が多いという。

「今回の調査では、タブレットを使って質問をする方式がとられ、その研修も行いました。若い方はすんなり覚えられますが、私と同じくらいのおじさんたちは、スマホすらよくわからないのにと四苦八苦していました。コロナで仕事が無くなった、という方も多く、私と同じような状況の人が結構な数いた印象です」(徳田さん)

 そんな徳田さんたちが選挙当日、投票所で受けたのはあまりにも厳しい洗礼だった。

関連記事

トピックス

62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
今回の地震で道路の陥没に巻き込まれた軽自動車(青森県東北町。写真/共同通信社)
【青森県東方沖でM7.5の地震】運用開始以来初の“後発地震注意情報”発表「1週間以内にM7を超える地震の発生確率」が平常時0.1%から1%に 冬の大地震に備えるためにすべきこと 
女性セブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン