新幹線「N700S」の車内に設置されている防犯カメラ(時事通信フォト)

新幹線「N700S」の車内に設置されている防犯カメラ(時事通信フォト)

防犯カメラを増設しネットワーク化

 こうした体制の変遷はあったものの、鉄道事業者が常に駅構内・列車内で治安対策に気を配っていることに変わりはない。列車内は逃げ場がなく犯行を実行しやすい環境にある。長距離列車内の警戒は、特に厳重になる。

「JR東海では、今年11月に名古屋駅を発車した『のぞみ6号』の三河安城駅―豊橋駅間を走行中に事件が発生するという想定で訓練を実施しました。同訓練は、小田急・京王の事件が起きる以前から取り組んでいるもので、昨年11月にも実施しています。同訓練は、防護盾・耐刃手袋・耐刃ベストなどの防護装備品を活用した不審者への訓練です。そのほか、今年6月にも静岡駅―掛川駅間で異常時に対応する訓練を実施しています」(同)

 JR東海は、車掌をはじめとする乗務員が車内での緊急事態に対応できるように訓練を実施しているだけではなく、民間の警備会社が警乗するなど列車内における治安対策の強化にも力を入れる。セキュリティの観点から列車本数・区間・人数などの具体的な警乗内容は回答できないとのことだが、「一部の列車には鉄道警察隊も警乗している」(同)という。

 鉄道警察隊とは国鉄が分割民営化した際に誕生した、警察内の鉄道治安対策を担当する部署のこと。沖縄県を除く各都道府県警察が設置している。JR東海は、そうした人的な警備だけではなく、防犯カメラの設置で列車内の治安向上を図っている。

「N700Aタイプの車両の乗降扉の上部には、防犯カメラを設置しており、さらに客室内及びデッキ通路部にも防犯カメラを増設するなど、厳重なセキュリティ対策をとっています。2020年3月より順次、指令所において列車内の防犯カメラ画像を個別に取得できるようネットワーク化を進め、すでに完了しています」(同)

 防犯カメラは犯罪の抑止力にはなるだろう。また、犯人が逃走した場合にも早急な身柄確保に効果を発揮することは違いない。しかし、実際に犯行がおこなわれているときに乗客を守ることはできない。そうした事情から、JR東海は乗客の安全を確保する手段として通信システムの充実にも力を入れる。

「2019年9月から、指令員が列車の乗客に向けて車内放送を直接できるようになりました。これにより、乗務員が避難・誘導といった対応に専念できる体制が整備されています。また、乗務員やパーサー、指令員のスマートフォンに導入しているグループ通話システムの導入範囲を警備員にも拡大し、警備員の初動対応が迅速化されています」(同)

 こうした治安対策を講じる一方で、JR東海は「現段階では、空港で実施されているような手荷物検査や金属探知機などによるボディチェックを駅で導入する予定はありません」(同)としている。

 手荷物検査やボディチェックを実施すれば、より安全性は高まるだろう。他方で、「駅に行けばすぐ乗れる」といった利便性を犠牲にしなければならない。そのバランスは難しいが、今のところ鉄道において手荷物検査やボディチェックを実施することを求めるような世論にはなっていない。

 昨年から続くコロナ禍により、鉄道需要は激減している。ようやく緊急事態宣言が解除され、少しずつ需要の回復が見込まれている。そうしたタイミングで起きた小田急線・京王線の事件は、鉄道需要の回復にブレーキをかけかねない。

 危険に襲われるのは、新幹線のような長距離列車ばかりとは限らない。隣駅への移動でも、事件に巻き込まれる可能性はある。安全対策に完璧はない。

 それだけに鉄道事業者は常にアクシデントを想定して、それらの対策が求められる。鉄道事業者にとっては面倒な話ではあるだろう。それでも、多くの乗客が安心して利用できる鉄道を実現するために一丸となって取り組んでもらいたい。

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