「感染後、他人の言動に無性に腹が立ったり、不安を感じたりするようになりました。理由もなく悲しくなって涙が出たかと思いきや、突然ハイテンションで騒ぎたくなることもある。戸締りを何度も確認したり、職場でもスタッフに同じ注意を繰り返したりするようになり、自分でも情緒不安定になったことを自覚しています」
同じく1月にオミクロン株に感染した大阪府在住の会社員・D子さん(36才)は、回復後に神経過敏になった。
彼女は寒暖差をひどく感じるようになり、体の一部をどこかに軽くぶつけただけで骨が折れたような激痛が走るという。それまで気にならなかった些細な生活音が耳障りになり、イライラするようにもなった。
D子さんは現在も大学病院に通って、後遺症の治療を続けているという。
長期にわたることもある後遺症
なぜ、そうした後遺症が起こるのか。
「まだ不明な点も多いですが、注目は炎症の影響です」
そう指摘するのは一石さん。
「新型コロナに感染すると、『炎症性サイトカイン』というたんぱく質が大量に産生されて、制御不能な免疫反応を引き起こします。免疫の働きで脳内に生じた炎症が脳細胞を損傷・破壊して、後遺症が引き起こされると考えられます。
実際に患者のなかには、記憶を司る海馬の細胞が10分の1に減少したり、大脳が損傷したとみられる人が出ています」(一石さん)
海外の研究では、新型コロナウイルスが直接、脳細胞に感染して脳の働きを阻害したり、感染で生じた血栓が脳に悪影響を与えるのではないかとの見解もある。
どのようなタイプの人が後遺症を抱えやすいのか。
「国立国際医療研究センターの研究では、新型コロナが重症化するリスクが高いのは肥満傾向の男性高齢者でした。一方、後遺症が残りやすいのは若年層ややせ型の人とされます。また男性より女性の方が、倦怠感、嗅覚や味覚の障害、脱毛などの後遺症が出やすかった」(一石さん)
新型コロナ後遺症の治療を行う新中野耳鼻咽喉科クリニック院長の陣内賢さんも「若者」に注意を促す。
「ウチに来院する患者さんに限れば、若い世代の後遺症が目立ちます。年齢が若い分、免疫機能が活発で炎症が生じやすいためかもしれません」(陣内さん)
後遺症が恐ろしいのは、症状が長期にわたることだ。
「前述した国立国際医療研究センターの研究では、新型コロナから回復後に4人に1人の割合で、発症から半年経っても何らかの後遺症とみられる症状が出現していました。さらに1年後でも、1割弱の人に症状が残っていました」(一石さん)
中国・首都医科大学の研究では、新型コロナ発症から半年後に患者全体の68%が何らかの症状を訴え、1年後でも49%に症状が残った。特に息切れと不安・うつ症状は半年後よりも、1年後の方が割合は増えていた。現場からはこんな懸念も聞こえてくる。
「新型コロナに感染後、いったん症状が改善したのに、それからまた再発したという患者さんがいます。体調の改善とともに後遺症を抑え込んだとしても、何かの拍子でまたぶり返している。臨床現場では、ウイルス感染の影響はなかなかゼロにならないことを実感しています」(陣内さん)
怖い後遺症が残らないためにも、まずは感染対策の徹底が求められる。
※女性セブン2022年2月3日号