同書に掲載されている紀行文はダイナースクラブの会員誌『シグネチャー』に10年以上にわたって連載されていたとあって、スペイン、フランス、イギリス、イタリア、アメリカ、中国、韓国、そして日本国内とまさに世界中を旅している。街角で出逢った人のさりげない「ひと言」やゴヤ、ミロ、モネ、セザンヌ、ターナーといった画家、ナポレオン、ヒットラーといった権力者、マイク・タイソン、セベ・バレステロス、ボビー・ジョーンズ、長嶋茂雄、松井秀喜、松山英樹といったスポーツ選手などの、ふと心に響いた数々の「言葉」を取り上げている。
また昨年11月に大病からの復帰後、初めての刊行となった小説『ミチクサ先生』のなかに出てくる不治の病に冒されている親友・正岡子規に夏目漱石が送った「見つゝ行け旅に病むとも秋の不二」という句や、またその正岡子規が残した「六月を綺麗な風の吹くことよ」という句も自らのエピソードとともに紹介されている。
かつてのように、ふらっと自由に旅に出られる日がいつの日か訪れることを楽しみにしつつ、いまは読んで「世界」に想いを馳せてみるのは、いかがだろうか。