ビジネス

テレビ局がADの呼称変更 深刻な人手不足解消狙うも焼け石に水が実態か 

日本テレビは「ヤングディレクター」というADの新呼称を発表した(イメージ、時事通信フォト)

日本テレビは「ヤングディレクター」というADの新呼称を発表した(イメージ、時事通信フォト)

 テレビ業界におけるアシスタントディレクター、ADという略称の方が知られている肩書きは、演出補佐などと呼ばれることもある職種だ。だが一般的には、演出をする人というよりも、バラエティ番組でたびたび出演者にからかわれる下働きのイメージが強いだろう。その「AD」という呼称をテレビ各局が廃止する動きが相次いでいる。ライターの宮添優氏が、呼称変更の本当の目的を探った。

 * * *
「ADといえば、一番の下っ端、半人前ってイメージですかね。数年前からそれぞれの部署で、ADの呼称を変えようという動きはありましたが、日テレさんは社としてやるんだと。まあ、ふーんという感じですが」

 日本テレビを始め、テレビ各局で「AD」という呼称を廃止する動きが出ているという報道を見て、日テレほか都内の複数キー局に出入りし、バラエティ番組制作を担当しているフリーディレクター・小島誠氏(仮名・40代)はフフン、と鼻を鳴らす。

「日テレではADでなく『ヤングディレクター』とか、報道だと『ニュースアシスタント』などと呼ぶようですが、仕事内容が変わるわけじゃない。相変わらずの激務薄給。どの局でも似たようなもんで、呼び方だけ変えられてもね……と、呼び名が変わるAD本人たちは冷めた感じ。それに、年を追うごとにADの数が少なくなってきて、本来であれば20代後半で中堅のはずなのに、いまだにADから抜けられない人もいる。ADという呼称をなくすことが話題になっていますが、現実には、もうADの存在自体が希少なわけで」(小島さん)

 ネット上には「名前を変えるだけ」「本質は何も変わらない」という指摘が相次いでいるが、そもそもADのなり手は減少傾向にあった。会社に泊まり込むほど忙しく、しかし給与は安く、上司には怒鳴り散らされる悪質な労働環境と待遇のイメージが強いからだ。小島さんいわく、「ADの呼称変更」は、負のイメージを払拭して志望者不足解消を狙った取り組みだという。また、ある民放局の情報番組プロデューサー・佐々木直也氏(仮名・40代)も、同様の見方を示す。

「10年くらい前までは、テレビ局の仕事はまだ人気だった気がします。ADは激務で辞める奴も多いですが、入ってくる人間もたくさんいた。でも、最近はテレビのブランド価値も低下し、ADから入って頑張ろうという若手も減ったんです。だから現場では、ADの負担を減らしたり試行錯誤したんですが、やはり人が来ない。今いるADに甘くなりすぎて、中堅ディレクターが疲労し、内部がぐちゃぐちゃになったという部署もある」(佐々木氏)

 そして、安くて簡単にコマ扱いできるAD、変えはいくらでもいるというAD、なんていう弱い立場の存在がないと制作現場がまわらない実態があった、と佐々木氏は正直に吐露する。もちろん、そんな現場の雰囲気は、AD本人が一番理解している。都内の民放キー局で情報番組を担当する元ADで、現在はAP(アシスタントプロデューサー)を務める丸井渚さん(仮名・30代)が絶望感を滲ませる。

「ADの給与は手取り15万円程度でボーナスもありませんから、都内に住むにしても、局の近くには住めません。多忙だから、自宅に帰る余裕もなくなり会社に寝泊まりし、食事はほとんどコンビニ弁当。昔みたいに経費で食事ができるなんてこともなくなりました。昔は一番組に何十人もいたADですが、薄給激務に加え、一人のADが何人ものディレクターやプロデューサーの仕事をこなさなければならず、以前にもまして辞めていきます」(丸井さん)

関連記事

トピックス

大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
“進次郎劇場”で自民党への逆風は止まったか
《進次郎劇場で支持率反転》自民党内に高まる「衆参ダブル選挙をやれば勝てる」の声 自民党の参院選情勢調査では与党で61議席、過半数を12議席上回る予測
週刊ポスト
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト
自民・公明・立民が成立させた年金改革法案に重大問題 「厚生年金の減額期間」をこっそり延長、法案採決に欠席した河野太郎氏は「国民の年金への信用を失う」と憤慨
自民・公明・立民が成立させた年金改革法案に重大問題 「厚生年金の減額期間」をこっそり延長、法案採決に欠席した河野太郎氏は「国民の年金への信用を失う」と憤慨
マネーポストWEB