選手生命を懸けて4回転半に挑み続けた羽生選手(写真は2018年)

「9才の自分にほめてもらえた」

 たったひとりになっても、選手生命を懸けて4回転半に挑み続けたのはなぜか。羽生は会見で「9才の自分」の存在をこう明かした。

「ぼくの心のなかに9才の自分がいて、あいつが『跳べ』とずっと言っていたんですよ。ずっと『お前へたくそだな』と言われながら練習をしていて。でも今回のアクセルはほめてもらえたんですよね。一緒に跳んだというか、ほとんどの人は気づかないと思うけど、実は同じフォームなんですよ。9才のときと。ちょっと大きくなっただけで。だから一緒に跳んだんです」

 9才のとき、羽生は初めて出場した全日本ノービス(小学3~4年生のクラス)で優勝した。それ以来、彼はひとりではなかった。だが「リトル羽生」は北京で役割を終えたかもしれない。

「正直に言うと、五輪2連覇を果たしたとき、もうこれで引退だと周囲は思いました。でも彼をさらに4年間支えてきたモチベーションは4回転半でした。会見で『9才の自分』と語ったように、子供の頃からのスケート人生の集大成が4回転半だったんです。彼はそれをとうとう跳んでしまった」(フィギュアスケート関係者)

 2月14日に行われた会見で羽生はこうも語った。

「ずっと壁を上りたいと思っていたんですけど、いろんなかたがたに手を差し伸べてもらって、最後に壁の上で手を伸ばしていたのは9才のおれ自身だったなって。最後にそいつの手を取って一緒に上ったなという感覚があって。そういう意味では、羽生結弦のアクセルとしてはこれだったんだと納得しているんです」

 そう語る羽生の姿を万感の思いで見つめたのは家族だったはずだ。

「会見で羽生選手は『家族を守るのも大変なことです』と語りました。実際に羽生選手のお母さんは決して裕福ではない家庭環境のなか10年以上にわたって国内外で彼に付き添った、羽生ファンでもあります。わずかな休憩時間に痛み止めの注射を打ち、リンク上で『羽生結弦』であり続けた息子を見て、お母さんはもう休ませてあげたいと思っていることでしょう」(前出・フィギュアスケート関係者)

 今後について、羽生の気持ちは固まっているのか。

「羽生選手なら4年後もメダルを争えます。それほどの実力を持っています。充分に休養してからもう一度リンクに戻ってきてほしいというのがファンや関係者の願いでしょうが、まだ引退か現役続行かの二択を考える時期ではないでしょう。

 あれほどの選手なのでスポンサーや連盟への影響力も大きく、そう簡単に進退を口にできるわけではありません。難しい状況のなかで、各方面に気を使いながらも、彼なりに本音を語ろうとした記者会見だったと思います」(前出・フィギュアスケート関係者)

 フリー演技で挑んだ4回転アクセルはISU(国際スケート連盟)に正式に認定された。3月には『世界選手権』(フランス・モンペリエ)が控えている。そこで再度4回転半に挑戦するのか、夢はまだまだ続く。

※女性セブン2022年3月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン