歩いていると「DVD」とささやかれる(イメージ、時事通信フォト)
筆者は今年、歌舞伎町のある通りでこうしたやりとりの一部始終を目撃したが、それはまるで違法薬物の路上取引の如く、スピーディーに行われていた。キャッチに近づいていった客の男性は、一言二言何かを告げると、周囲を伺いながら少し離れたところにあるコインパーキング敷地に身を隠す。まもなく、キャッチの男性のところに白い紙袋を持った別の男が近づいてくると、客も早足で近づき、おそらく現金と引き換えに紙袋を受け取る。この間わずか10分弱。キャッチも買う側も慣れたもの、という印象だが、キャッチから「ブツ」を受け取った男性を呼び止めると、最初は驚いた様子だったが、やがて妙に腰の低さを強調するようなニュアンスで、筆者にこう告げた。
「コロナでどこにも行けないでしょう? ずっと在宅だし。こうやって買って、こっそり楽しんでるだけなんだから。お兄さんもわかるでしょ。ネット使えないからしょうがない。あんまり僕らのことをいじめるのをやめてよ」(男性)
男性はぱっと見、50歳そこそこという見た目。「パソコンが使えない老人」というには少々若すぎるようにも感じたが、身分証明書を見たわけではないので、見た目年齢が若いのかもしれない。コロナ禍以前は、新宿や池袋などを回り、好みの「ブツ」を物色して回っていたが、コロナ禍でそれが叶わなくなったと話す。
「ほら、ドキドキ感もあるじゃない。あと、買って見るだけじゃ逮捕されることもないしね。これくらい許してよ、いじめないでよ」(男性)
そういうと歩調を早め、地下鉄の入り口に消えていった。
使い方がよくわからないネットを使いその手の映像を視聴したものの、個人情報などが抜き取られたらどうしよう、不安が拭えないと言う高齢者は少なくない。そういう人はかなりのボリュームで存在しているので、よく報道されているような不正請求の被害に遭う危険を冒すより「安全に」鑑賞できる手段を、と考えてDVD鑑賞へのニーズは高まっていくだろう。次に当局が違法DVD販売店の「根絶」を宣言するのがいつかは知らないが、数十年続く「いたちごっこ」が終焉を迎える日は、とうぶんやってきそうにない。