「毒親」にはならない、潔く自由なイメージ

 彼女の名前が一般に知られることになったのは、映画『Shall we ダンス?』で演じたダンス講師役。幼い頃からバレエを始めて、プロのダンサーとして培った肉体美。それは映画が公開された1996年当時、非常に稀有なものだった。まだ日本人の体型は膝より下の方が短く、女性が鍛え上げた体を誇ることはなかった。

 同作でメガホンをとった映画監督の周防正行氏と結婚した後も、数々の作品で女優として活躍していく。時々、メディアで見かける二人の姿や、それぞれのインタビューから仲の良さが伝わってきた。

 あくまでこれは私の印象だけど、草刈さんは、美しく、潔く、自由なイメージがある。自分の意志を貫き通すような強さを感じる。でもちゃんと夫には愛されて、愛して。草刈さんが演じている母たちは、全てそんなご本人のイメージと近い。ドラマで娘たちに言っていた「結婚して幸せにならなきゃダメじゃない!」というようなニュアンスのセリフ。そのまま言葉だけを読むのなら「毒親」になりかねないけれど、ご本人のイメージがミックスされると、見ているこちらもニヤリとしてしまう。

 家事が苦手な娘たちも、草刈さんが演じる母親役と絶妙にマッチする。例えば3人の娘たちが、過去のドラマによく登場した一般的な母親(専業主婦、夫に仕える、黙って優しく家族を見守る)を相手にしていたら、非常に話が重たくなる。自分の不甲斐なさに娘たちは窮屈さを感じるだろう。これがあんなパキパキして時にはお父さんに甘えるようなお母さん=草刈さんだと、家事くらいはできなくてもいい、と娘もどこかで開き直ることができる。特に『わたなぎ』と『ムチャブリ!』で顕著に感じたことだ。

 と、あくまで推論ではあるけれど、そんな彼女が演じる母親役はとても好きである。見ていて何の嫌味もない。でも本当に自分の母親だったら……との想像はいかんともし難い。

【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。近著に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)。2022年3月に新刊発売予定。静岡県浜松市出身。

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