コロナの前からそうだったが、コロナになって、その傾向は一層強まっている気がする。
単純な解決策というわけではないが、かなり前から養老先生は、「平成の参勤交代」、つまり二拠点での生活を提唱し、みずからも実践している。
「いろんな人がいていろんな暮らし方があるはずなので、会社と家を往復するだけじゃない暮らし方があっていいはずなんです」
生死について、ヒトが生きることについて、あれこれ考えるようになったのはネコと暮らしたおかげだと言う。
「日常って割と変化がないものですが、ネコがいると、本当にいろんなことが起きますからね。先代のネコはすごくて、朝起きると、部屋の中をヘビが這いまわってたり、モグラが走り回っていたりしました。連れてきて、放り出していくんです。2020年の暮れに死んだ『まる』はのろまだったから、せいぜいヤモリぐらいしかとれなかったけど」
スコティッシュフォールドのまるは、愛嬌のあるたたずまいが人気で、新聞やテレビで取り上げられることも多かった。フォトブックが3冊出版され、死んだとき、共同通信に訃報が出た。
「まるの頭をたたくのが癖になってて、いまもつい、頭をたたくつもりで骨壺をたたいてしまいます」
【プロフィール】
養老孟司(ようろう・たけし)/1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。1962年、東京大学医学部を卒業後、解剖学教室に入る。1995年に東京大学医学部教授を退官し、現在は東京大学名誉教授。近著に『遺言。』『半分生きて、半分死んでいる』『AI支配でヒトは死ぬ システムから外れ、自分の身体で考える』や対談集『AIの壁 人間の知性を問いなおす』、『養老先生、病院へ行く』(中川恵一共著)、『まる ありがとう』(写真・平井玲子)など多数。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2022年3月10日号