遠藤:渡辺さんはひとりで京都の撮影所で頑張っていましたね。
角川:以前、京都の撮影所で「遠藤さんの顔を見るとホッとした」と、典子が言っていたことがありましたよ。
知世は姉の貴和子(56才)と一緒に『伊賀忍法帖』の福岡予選オーディションに来て、私は最初、貴和子を選ぶつもりでした。というのも、知世は先にお話ししたように、真田広之に会いたくてオーディションに来ていたからです。でも、オーディションのときに知世がバレエをやっていると言うので、『白鳥の湖』を少し踊ってもらったらとても素敵で、“彼女がオーディションの本選で、バレエを踊ったら絵になるな”と思いました。
『伊賀忍法帖』の本選オーディションは東京駅に近い『東京會舘』で行いましたが、そこで知世は八神純子さん(64才)の歌を歌い上げました。その姿を見ていると、知世から“私を見て”という声が聞こえたんです。もちろん彼女はそんなことを言っているわけではないのに、“私を見て”と言っているような気がするんです。テレパシーというのか魂の声というのか、なんとも言えない不思議な感覚でした。
私は、このオーディションでは、基本的に芸能界に憧れのある人間は選ばないと決めていました。芸能界で成功したいと思っている人間は、どうしてもガツガツしたところが目について長続きしないからです。彼女たちもこれが終わったら辞めてしまうかもしれない、このデビュー作1作で終わるかもしれないと思っていたんですが……。
(第2回につづく)
【プロフィール】
編集者・映画監督・映画プロデューサー 角川春樹さん(80才)/角川春樹事務所代表取締役社長。出版界の風雲児として、数々のヒット作を生み出すかたわら、映画プロデューサーとして、1976年『犬神家の一族』を皮切りに、映画界に進出。角川映画として、『人間の証明』(1977年)、『野性の証明』(1978年)、『ぼくらの七日間戦争』(1988年)、『天と地と』(1990年)など70作を世に送りだす。2020年には監督作の映画『みをつくし料理帖』が公開。全人生を語った書籍『最後の角川春樹』(伊藤彰彦著/毎日新聞出版)でも『角川映画』誕生秘話を明かしている。
映画宣伝プロデューサー 遠藤茂行さん(68才)/東映にて角川映画『戦国自衛隊』(1979年)を皮切りに、『セーラー服と機関銃』(1981年)、『探偵物語』(1983年)、『Wの悲劇』(1984年)など数々の話題作の宣伝を手掛ける。東映作品として『ビー・バップ・ハイスクール』(1985年)、『バトル・ロワイアル』(2000年)、『GO』(2001年)ほか数々の作品に宣伝、企画、製作などとしてかかわる。現在も映画プロデューサーとして活動する傍ら、ダンス・芸能専門学校『東京ステップス・アーツ』で講師を務める。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2022年3月17日号