芸能

『365日の献立日記』鈴木保奈美の声は水を得た魚のようにいきいきと躍る

鈴木保奈美

活躍の場を広げる鈴木保奈美

 定型にはまらない番組の面白さに気づいた時の高揚感は格別だ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

 * * *
 殺伐とした世の中で「心底ほっとできる」と静かな話題を呼び、じわりとファンを増やし、放送後には「今日流れていた音楽は何でしょう?」とネット上で曲目の質問が交わされる。人気を反映するようにDVDも先月発売されたばかり。それがたったの「5分間」のミニ番組についてだとすれば……どんな番組内容を想像されるでしょうか?

 トントンとまな板の上で野菜を切る。ジュッとフライパンで焼く音、しゅわっと油で揚げる音。白く立ち上る湯気、匂い立つような色と質感。感覚を揺さぶるシズル感に溢れている。一見すると料理番組。しかし従来の料理番組とは、どこか何かが違う。

 まず、料理をする人の姿がないのです。手元の動きのみが映し出され、作り方の詳しい説明や調味料の分量表示もありません。「ほっほっほ」「よいしょっ」「むっむむ」「ギューッ」「ふわっふわ」。

 ナレーションもひと味違っていて、レシピの説明ではない。うるさくない程度に擬態語、擬声語、驚きや感情表現が多彩。「今日はこれやってみますか」「できたっ」「あったまりそう」「さあ、こねるぞ」。

 料理している人の語りらしい。しかし料理家の声ではなく、聞き覚えのある女優さんの透明な声です。その声の主は、鈴木保奈美さん。

『365日の献立日記』(NHK Eテレ金曜:21:55、再放送日曜8:55、火曜12:45)は昭和の名優・沢村貞子さんが26年半記録した「献立日記」をもとに構成されています。「献立日記」に書かれているのは料理名のみ。メモとして朝晩の献立・日付を記入したシンプルな日記です。

 この番組では「献立日記」にある料理名をもとに料理家・飯島奈美さんが自由に作っていくのですが、飯島さんの姿もなく映るのは作業をしている手だけ。声で登場する鈴木さんはいわば「主人公」役で、料理をしている人になって野菜の色にびっくりしたり卵や米や魚といった馴染みの素材に新鮮な発見をしたり、民芸を中心とした焼き物の器をワクワクして選んだり。あらかじめ準備された説明的なセリフというよりも、今・ここのリアクションがいきいきと伝わり場の空気感や手触り感がリアルに漂う。

 BGMがまたステキ。ツボに入ってしまうフィット感。つい何の曲なのかを知りたくなる。「青豆ごはんの回に使われた曲が何か知りたいのですが」といった質問がネット上に飛び交うのもそのせいでしょう。ジャック・ジョンソンやノラ・ジョーンズなど、使われるのは主に洋楽でアコースティックなナンバーが多いのですが、時に日本の秀れた音、例えばNulbarichの「Sweet & Sour」(『デザイナー 渋井直人の休日』のEDソング)が流れてきたり。映像のシズル感と音楽とが絶妙に溶け合い、センスの良さに思わず唸る。

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン