今年の選抜には、あの少年名探偵と同じ名前の球児がいた。大分舞鶴と開幕試合を戦う浦和学院のエース左腕・宮城誇南(こなん)だ。沖縄から埼玉の名門校に越境留学してきた彼は、南国で育まれた誇りを聖地で見せられるか。ちなみに同校の監督である森大(だい)監督は甲子園初采配となるが、昨年まで指揮していた森士前監督は実の父であり、「士」と書いて「おさむ」と読むことは長く甲子園を取材する者にとって常識だった。
大会2日目の第1試合で広陵と対戦する福井・敦賀気比のエースで主将、そして4番を打つのが上加世田頼希(うえかせだ・らいき)だ。捕手の渡辺優人とは中学軟式野球チームの門真ビックドリームス時代からバッテリーを組み、共に軟式のU-15侍ジャパンにも選出された経歴を持つ。ちなみに3歳下の弟である瑠己(りゅうき)も兄の古巣で活躍中だ。
大会4日目に控える屈指の好カード、星稜対天理戦で、星稜の先発マウンドに上がりそうなのが、米国人の父と日本人の母のハーフであるマーガード真偉輝(まいき)キアンだ。U-15侍ジャパン時代に彼を取材した経験があるが、186センチ、90キロの立派な体格で、マウンドでは威風堂々たる立ち居振る舞いをみせる。彼も沖縄出身で、昨秋の北信越大会では、寒さが苦手な印象を抱いたが、春の甲子園でどんなピッチングを見せるのか。
一方、天理にもマーガードに匹敵するような体格のエースがいる。北海道日本ハムにドラフト1位で入団した達孝太からエースの座を引き継いだ南澤佑音(みなみざわ・ゆうと)だ。今年の出場選手には、倉敷工業のサード・松嶋文音(もね)や日大三島のセカンド・相原礼音(れおん)のように「音」の字が入った名前も目立つ。彼らが生まれた2000年代初頭に流行ったのだろうか。
「るい」や「せな」など、他のスポーツ選手のレジェンドや、人気ドラマの主人公が由来と想像する名前も見受けられるのが甲子園だ。また、早稲田実業の荒木大輔にあやかって名前を授かった松坂大輔もまた甲子園で伝説を作った。そういった意味で、“PL学園の最高傑作”とも呼ばれ、メジャーリーグも経験した松井稼頭央(かずお、現埼玉西武ヘッドコーチ)のファンだったという父から同じ名を与えられたのが、鹿児島・大島のエース左腕・大野稼頭央だ。大野は言う。
「初めて会った方から、『お父さんが松井稼頭央のファンなの?』と頻繁に聞かれますね。仲間からも『稼頭央』と呼ばれていますし、気に入っています」