なるほど、と腑に落ちる。近年、駅などで女性ばかりを狙ってわざとぶつかってくる人のことが話題になるが、こうしたことも、不安の感情の間違った爆発のさせかたなのかもしれない。
「不安の問題というのは、ものすごく深刻なんですよ。でも多くの人は、自分がその深刻な問題に直面していると気がつかないんですよね。だから、人間関係にトラブルがあったときは、自分が心理的に不安なんだってことに、まず気がつかなければいけないです」
不安に気づいても、つい見て見ぬふりをしてしまうことがある。だが、加藤さんは、不安から逃げる「消極的解決」ではなく、自分が不安を抱えていることを正しく認識して向き合う「積極的解決」をすることがたいせつだと言う。不安を消極的解決することで、人生が行き詰まり、追い詰められてしまうこともあるからだ。
「不安な時こそ人生の岐路だと捉えてください。本当の自分を知ることで、がらっと人生は変わります。人間がいちばん知りたくないのは、本当のこと。イソップ物語の昔からそうで、キツネが取れなかったブドウを『酸っぱいブドウ』と言うのも、自分が取れなかったと認めたくないからで、現実否認です。
人間の欲求は、抑えることでかえって強化されてしまうんです。本当は出世したいのに『出世なんてくだらない』と言う人は、余計に出世したくなっちゃう。自分の気持ちを素直に認めれば、欲求も消えるし、人間関係のトラブルもおおかたは解決します。不安というのは赤信号で、自分の生き方を変えるためのサインなんです」
【プロフィール】
加藤諦三さん(かとう・たいぞう)/1938年東京生まれ。東京大学教養学部を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問。ラジオ『テレフォン人生相談』(ニッポン放送系列)で60年近くレギュラーパーソナリティーを務める。著書は700冊以上、訳書はアジアを中心に約100冊ある。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2022年4月7・14日号