ライフ

シューベルトの代表歌曲集『冬の旅』は梅毒による絶望の病床で作られた

白鴎大学教授の岡田晴恵氏が梅毒について解説

白鴎大学教授の岡田晴恵氏が梅毒について解説

 今もその対応に悩まされている新型コロナウイルスだけでなく、人類は感染症とともに生きてゆかねばならない。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、国内で感染者数が急増している「梅毒」について、前回から引き続き解説する。

 * * *
 感染症対策の岡田晴恵です。

 さて、今回は「梅毒」の続編として、この病気に罹って苦しんだ人の人生を取り上げたいと思います。この病に取りつかれた芸術家は多くいますが、なかでも私の心に残るのは、フランツ・シューベルト。

 シューベルト(1797~1828年)は生涯に630の歌曲と8つの交響曲を残しています。その代表歌曲集『冬の旅』を創作した翌年、彼は梅毒のために31歳で亡くなっています。かの有名な「未完成交響曲」を書き出した時に彼は25歳でしたが、すでに梅毒の症状に苦しめられていました。この曲が未完となったのも、この病のためでした。

『冬の旅』の主人公の青年は、失恋の末に社会から隔絶され、孤独の中でやがて深い絶望感に苛まれていきます。そして、彼は死を望みながらも、果たすことはできず、苦しみながら生き長らえて、手廻しオルガンを鳴らす老人と一緒にヨーロッパの厳冬の世界をひたすら歩き続けていくのです。白銀の森、凍てつく石畳の街を……。

 作曲家としての人生の大半をこの病に苦しみ、『冬の旅』の作曲当時も、死の病床にあったシューベルトは、友人たちに「恐ろしい曲を聴かせよう」とこの曲を披露したそうです。

 前号でご説明したように、梅毒はスピロヘータ科の細菌による感染症で、現在は抗生物質で治療が可能です。その発見は20世紀のこと。当時の彼は、慢性に進行していく病に苛まれていくしかなく、全身に発疹が出て、その皮膚症状のために頭皮は痂皮(かさぶた)でおおわれ、髪はそり落として、かつらで隠しました。そして「僕はこの世でもっとも不幸でみじめな人間だということだ。もう決して健康が回復することはなく、その絶望感から人生をますます悪くしてしまう」と、彼は嘆きました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン