芸能

時と戯れた『カムカム』 破天荒な演出に違和感がなかった不思議

爽やかなオフィシャル写真(NHK公式HPより)

爽やかなオフィシャル写真(NHK公式HPより)

 朝ドラの歴史のなかでも秀作として語り継がれるのではないだろうか。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

 * * *
 NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』がとうとう終わってしまった。「ロス」という言葉でごまかすことができない喪失感に包まれている視聴者も多いはず。無駄なキャラクターは1人もいなかったし、小さなエピソードもつながり伏線は確実に回収されていく。そんな心地よさに満ちていた。とはいえ振り返れば、「異色だらけ」の朝ドラでした。

 まず、主人公が一人ではなく三世代にわたる。子-母-祖母のファミリー100年を描き出す時の幅。しかも最終週のタイトルには「2003~2025」とあって、なんと2025年の未来まで描いてしまった。こんな朝ドラ見たことない。未来へのワープって、朝ドラでは禁じ手ではないのでしょうか。

 また、「時空間を一気に行き来する」演出にも驚かされました。冒頭、コロナ禍の中らしきマスクの人々が映り2024年度から始まる新しい英語講座の話題が。しかし本編が始まると、いきなり20年程前に戻る。そんな「飛び技」も随所で自在に使いこなしていました。

「時」といえば、親と子、あるいは孫を同じ役者が演じるという飛び技も多用しました。銀幕スター桃山剣之介の親子2役を演じた尾上菊之助、ジャズ喫茶のマスター定一と息子の健一を演じた世良公則。荒物屋の親子2役となった堀部圭亮。きぬちゃんを演じた小野花梨が、最終回に孫の花菜役で登場したことも話題になりました。考えてみれば、親から子、孫へと遺伝子を受け継ぐわけで似た雰囲気でも不思議はない。けれどもトリッキーすぎるからか、これまで朝ドラではそんな遊び心のある演出を見たこともなかった。

 そもそも「時」といえば主人公・るいが象徴的。50才に近い深津絵里さんがうら若き10代の女性になって登場し、未来の白髪の老いた姿まで披露。時と戯れる主人公を深津さんが見事に演じ切りました。

 物語の中には過去の歌謡曲や映画の引用等のパロディも盛りだくさん。まさしく「時」を楽しむ仕掛けがありました。いろいろと破天荒。しかし一番驚くことは、見ている視聴者にとって破天荒が全くマイナスにならなかったことでしょう。こんなに思い切った演出なのに違和感がなかったのだから不思議です。

 たとえ説明がなくても時空間を飛んだとしても、十分にドラマは成り立つ。朝ドラの枠なんてあるようでないしその枠を破ったっていい。一人の主人公を軸にした物語を展開しなくたって視聴者は存分に楽しめる。そうしたことを次々に証明してみせてしまった。もはや、一人主人公のいつもの朝ドラへ戻ることができなくなりそう。

 極端なことを言えば、『カムカムエヴリバディ』は固有の人間の物語という以上に、人と人をつなぐ「時」を描いた。そしてその「時」は、究極のテーマを伝えるための壮大な仕掛けだった。

 では究極のテーマとは何でしょう? 「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」の呪文の中に隠されていたのでは。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
結婚を発表したPerfumeの“あ~ちゃん”こと西脇綾香(時事通信フォト)
「夫婦別姓を日本でも取り入れて」 Perfume・あ〜ちゃん、ポーター創業の“吉田家”入りでファンが思い返した過去発言
NEWSポストセブン
(写真右/Getty Images、左・撮影/横田紋子)
高市早苗首相が異例の“買春行為の罰則化の検討”に言及 世界では“買う側”に罰則を科すのが先進国のスタンダード 日本の法律が抱える構造的な矛盾 
女性セブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン