ビジネス

70代元家電メーカー技術者の悔恨「メイド・イン・ジャパンを放棄してはいけなかった」

韓国・水原にあるサムスン電子の半導体工場。2007年(AFP=時事)

韓国・水原にあるサムスン電子の半導体工場。2007年(AFP=時事)

「ものづくり」という言葉が日本の製造業の強さとして、さかんに世の中で言われるようになったのは1990年代後半のこと。団塊の世代がいっせいに定年を迎える「2007年問題」が取り上げられ、技術の継承が危ぶまれたこともあって注目をあびるキーワードとして浮上した。だが世間の耳目を集めたときにはすでに遅かったらしく、そのとき技術者たちは日本の製造業の隅へと追いやられた後だった。俳人で著作家の日野百草氏が、日本の「ものづくり」がどのようにして弱体化させられたのか、製造業の技術者として働いていた人たちが現場で見たことを聞いた。

 * * *
「よいものを作れば評価される時代がありました。それが儲かるだけのものに変わり、インチキしか作れなくなり、最後は関係ない仕事をしていました」

 筆者が教えるシニア向けの趣味サークルで語ってくれたのは70代の元技術者、出会った当時、といっても4、5年前だが「あの製品は私も手掛けてましたよ」と聞いて筆者は色めき立ったものだ。彼は家電メーカーの技術者だった。そう、かつての日本はあらゆる「ものづくり」で世界のトップに立っていた。

「あの時代、現場の技術者は次々とリストラされました。業界そのものを見限ってビルメンテナンスとかタクシー運転手とか別の分野に行ったのもいましたが、運良く腕を買われて中国や韓国の企業に手を貸した技術者もいましたね」

 柔和に笑う元技術者、70代は逃げ切りのように思われるかもしれないが、理系技術者に限れば、決してそうではなかったという。

「1980年代まではよい製品を作ればいい、ただそれだけでした。でも技術屋なんて本来そんなものです。会社が権力争い、出世競争をしていても私たちは蚊帳の外で、むしろそれでいいと思ってました。技術畑で出世する人なんて少ないし、まして一般(家電)でしょう、上が変な投資をしたって、技術を切り売りしたって止めようもない」

 詳細な経緯は本旨ではないため割愛するが、彼が工学の知識と経験で技術者として食ってきたことは確かだ。それは1990年を過ぎたあたりから怪しくなったという。

「多くのメーカーに銀行が介入してくるようになりました。うちもそうです」

 経営立て直しの名目で銀行から出向してきた連中はもちろん、よくわからない経営コンサルタントも送り込まれてきた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

??
「お前はダークウェブで性奴隷として売られる」クロエ・アイリングさん(28)がBBCで明かした大炎上誘拐事件の“真相”「突然ケタミンを注射され、家具に手錠で繋がれた」
NEWSポストセブン
新たな音楽特番『MUSIC GIFT』がNHKで放送される(インスタグラムより)
《「あんぱん」の特別ステージも》NHKの新たな音楽特番『MUSIC GIFT』が「夏の紅白」として期待できる理由 
NEWSポストセブン
風営法の“新規定”により逮捕されたホスト・三浦睦容疑者(31)(Instagramより)
《風営法“新規定”でホストが初逮捕》「茨城まで風俗の出稼ぎこい!」自称“1億円プレイヤー”三浦睦容疑者の「オラオラ営業」の実態 知人女性は「体の“品定め”を…」と証言
NEWSポストセブン
永野芽郁
《不倫騒動の田中圭はベガスでポーカー三昧も…》永野芽郁が過ごす4億円マンションでの“おとなしい暮らし”と、知人が吐露した最近の様子「自分を見失っていたのかも」
NEWSポストセブン
万博で
【日本人の3人に1人が栄養不良】大阪・関西万博で語られた解決の決め手とは?《キウイ60億食分を通じて、栄養改革プロジェクト進行中》
NEWSポストセブン
海水浴場などで赤と白の格子模様「津波フラッグ」が掲げられたら避難の合図。大津波警報、津波警報、津波注意報が発表されたことを知らせている(AFP=時事)
《津波警報中に目撃されたキケンな人たち》警戒レベル4の避難指示が出た無人海岸に現れたサーファーたち 「危ない」「戻れ」の住民の声も無視
NEWSポストセブン
中居正広
中居正広FC「中居ヅラ」の返金対応に「予想以上に丁寧」と驚いたファンが嘆いた「それでも残念だったこと」《年会費1200円、破格の設定》
NEWSポストセブン
「木下MAOクラブ」で体験レッスンで指導した浅田
村上佳菜子との確執報道はどこ吹く風…浅田真央がMAOリンクで見せた「満面の笑み」と「指導者としての手応え」 体験レッスンは子どもからも保護者からも大好評
NEWSポストセブン
石破首相と妻・佳子夫人(EPA=時事)
石破首相夫人の外交ファッションが“女子大生ワンピ”からアップデート 専門家は「華やかさ以前に“上品さ”と“TPOに合わせた格式”が必要」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
中村芝翫の実家で、「別れた」はずのAさんの「誕生日会」が今年も開催された
「夜更けまで嬌声が…」中村芝翫、「別れた」愛人Aさんと“実家で誕生日パーティー”を開催…三田寛子をハラハラさせる「またくっついた疑惑」の実情
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《秘話》遠野なぎこさんの自宅に届いていた「たくさんのファンレター」元所属事務所の関係者はその光景に胸を痛め…45年の生涯を貫いた“信念”
週刊ポスト
川崎、阿部、浅井、小林
女子ゴルフ「トリプルボギー不倫」に重大新局面 浅井咲希がレギュラーツアーに今季初出場で懸念される“ニアミス” 前年優勝者・川崎春花の出場判断にも注目集まる
NEWSポストセブン