一方、「文違い」は、主人公のお女郎が本命の男に貢ぐためにほかの男から金を巻き上げるも、本命にもまた別の女がいたという、騙し騙され噺。
「2時間ドラマを40分で聴けます(笑い)。しゃべっているのを聴いているだけで映画のように映像が広がり、『いい話聴いた』という気分になります」
江戸時代の世俗的な背景も見えてくるのが、「お直し」「小猿七之助」だ。
「『お直し』は、学生の頃から好きな噺です。吉原の花魁が従業員といい仲になり、夫婦となって独立するのですが、旦那は働かず、女房に客を取らせながら、やきもちがすごい、どうしようもない男。いまでいう“メンヘラ(精神的に不安定な様子)とクズ”がお互いに離れられない噺です。家元が『落語とは業の肯定だ』と言っていましたが、200年以上も昔から人間はやっていることが同じだなと思うと、気が楽になります(笑い)。
昔の吉原では、線香1本燃え尽きるまでがサービスタイム。延長の場合は、『お直しだよ』と言ってもう1本線香を立てる。タイトルを見れば、吉原の噺だとわかるわけです」
「小猿七之助」では船頭が出てくるが、当時、船頭はイケメンをそろえており、歌舞伎役者に次ぐ人気だったそう。
「談志、談春が続けてきた噺で、いかに“完コピ”するかが大切な演目です。難しくてなかなか頻繁には演じられない噺なので『小猿をやる』というと、通のお客さんも緊張する。私もまだ2回しかやっていません」
彼女の落語へのアプローチは独特だ。
「落語はいまだに男社会。女流が高座に上がると席を立つお客さんもいます。それでも、いまの落語界が楽しいと思っているので、現状を変えたいとは思いません。これまでも古典を変えずにそのままやり続けていますし、今後もそれを貫くでしょうね」
落語を聴く楽しさは?
「テレビや配信もいいですが、やっぱり生で聴くのがいちばんです。画面越しで見るのとは受け取り方が違うし、演者とお客さんとの一体感もある。機会があったら、一度会場にお運びいただきたいですね」