ここまではまさに“沙也加に捧げる”といった雰囲気だった。しかし、4人のダンサーによる幕間を挟んで再び登場した聖子は、涙を引きずることなくショーをリスタートしてみせる。そこには悲しみに暮れる母親の姿はなく、歌手・松田聖子として時に可愛らしく、時に妖艶に名曲の数々を歌い上げた。
「『時間の国のアリス』や『渚のバルコニー』といった人気曲での盛り上がりはすごく、観客も手拍子で乗っていました。特に『Rock’n Rouge』では聖子さんが4人のダンサーと一緒にフレンチ・カンカン(女性ダンサーのコーラスラインが上演するショーダンス)のようなスカートをたくし上げるダンスをしながらステージを駆け回り、見ていてすごく楽しい気持ちになりました」(観覧したファン)
その後も誰もが知っている名曲が続き、確かな歌声でファンを魅了した聖子は完全に復活を印象づけたと言っていいだろう。聖子が〈皆さんにも歌っていただきたいところですが、このご時世なので、心の中で一緒に大きな声で歌ってください〉と促すシーンもあったといい、歌を通してファンとの一体感を強調していたようにも思える。
前出の「聖子ちゃんと一緒に動き出します」と言っていたファンは語る。
「ここで止まってしまった時間だから、ここから始めるしかなかったんです」
松田聖子自身も同じ気持ちだったに違いない。そしてそれは、聖子も含めこの日会場にいたすべてのファンの思いでもあったはずだ。悲しみを乗り越え、松田聖子は再び歩き始めた。