パドックで出走馬の状態をチェックするのは調教師の大事な仕事
1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、調教師デビューしてからの日々についてお届けする。
＊ ＊ ＊
開業してからすでに1か月以上たちました。「もう」なのか「まだ」なのかという思いは別にして、ずっと厩舎にいるのでとにかく1日が長いですね（笑）。
朝は4時過ぎには顔を出しますが、僕があまり早く行くとそれより遅く来たスタッフはきまりが悪いだろうし、ずっといても僕の悪口とか言えない……それは冗談ですが（笑）。
スタッフにあまりプレッシャーを与えないようにと考えていますが、緊張感も大事。リラックスしているのはいいけれど、だらけてしまっては事故にもつながりやすいので、その辺の空気の締め方が難しい。藤澤先生は冗談言いながらも、締めるところはしっかり締めていらした。「スタッフをあまり褒めるとつけあがるから」と言うのも冗談交じりで、馬だけでなく人とのコミュニケーションも上手でした。
でも人間って、こちらが怒ったことに対して怒り返すことはあっても、褒められて怒る人は多分いませんよね。だから何がいいのかはっきり伝えるのも大事だと思うんです。それでモチベーションが上がればいいし、スタッフが僕のことを補ってくれて、引き上げてくれるといいですよね。
たとえばスタッフが「こういうところはいかがなものか」とか「こうしたほうがいい」と思うところがあった時、みんなで意見を出して風通しのいいやり取りができることが理想です。
馬をつくるのは人。人の気持ちが安定していないと、馬にも伝わってしまう。みんながすっきりして意欲的に仕事をしていけば、馬も応えてくれるんじゃないかと思います。みんなで馬のことを考えて、みんなでいい競馬をしようよ、と。
