スポーツ

V9川上哲治監督が貫いたポリシー「どんな立場でも喜んで働く人をちゃんと見る」

川上監督(左)は荒川コーチ(中央)に王の指導を託した(写真/共同通信社)

川上監督(左)は荒川コーチ(中央)に王の指導を託した(写真/共同通信社)

 日本プロ野球史上に燦然と輝く金字塔が、1965年から1973年にかけて巨人が達成した9年連続日本一だ。王貞治、長嶋茂雄の「ON」を中心とした常勝軍団を束ねたのが川上哲治監督。無類の厳しさで知られたが、心遣いも超一流だったという。(文中敬称略)【全4回の第4回。第1回から読む

 * * *
 川上に人間的な温かみを感じたという証言も複数ある。中日、西鉄を経て1971年に巨人に移籍した広野功は、V7~V9まで巨人でプレーしたが、川上に温かく迎えられたことをよく覚えているという。

「キャンプ初日に夕食後、“マネージャーが“監督が呼んでいます”と言うんです。ついていくと川上さんがいて、“よう来てくれたな”と始める。そこでチーム状況をすべて話してくれるわけですよ。”うちは一塁に王がいる。外野は高田(繁)、柴田(勲)、末次(利光)がいる。

 君を一塁や外野で使うわけにいかない。堀内(恒夫)から逆転満塁サヨナラ本塁打を打った勝負強さを買って、代打の切り札で使いたい“というわけです。複雑な気持ちでしたが、そこまではっきりと役割を示した監督はいなかった。凄い人だと思いましたね。こんな監督の下で野球ができるのは幸せだ。この監督のために頑張ろうと思いました」

 川上からはゲーム前に必ず訓話があったという。広野は“どんな立場であっても喜んで働く。そういう人を私はちゃんと見ているし、世の中も評価していく”と話されたことが印象的だったという。

「ボクは代打という立場で聞いたが、それぞれの選手、あるいは裏方の人たちも自分の仕事と向き合える言葉だったのではないか。川上監督は裏方に常に声を掛け、チームが一丸となった。連覇をしていくのは、何か宗教的にリーダーについていくという気持ちがないとできないんだなと思いました」(広野)

 V9巨人で遊撃手のレギュラーを務めた黒江透修も社会人から巨人入りした直後のキャンプをこう振り返る。

「キャンプ中に川上さんが直筆で女房に“ご主人は頑張っています。だから心配しないでください”と手紙を書いてくれた。妻帯者は女房に、独身者は両親に送ったようです。“哲のカーテン”とか、管理野球と言われますが、内部の者からすれば川上さんはものすごく気配りの人。ボクも公式の場以外では“親父さん”と呼んでいましたから」

 常勝軍団を束ねる名将は、厳しさと優しさを兼ね備えていたのだ。

(了。第1回から読む

※週刊ポスト2022年4月22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン