悪趣味な冗談で人格を否定されてしまうことも(イメージカット)
「どっかで『女房と味噌は古いほうがいい』も聞いたことがありやすが、これもダメでしょうか。古いのを持ち上げとけばいいようにも思いますけど」
「そうは問屋が卸さない。そもそも『新しい』『古い』という言い方も、そういう分け方をする発想も、突っ込もうと思えばいくらでも突っ込める」
「なんか世知辛いですね。『古くて悪かったわね。この古亭主』『あたしはまだまだ古さが足りないわね』なんて笑ってたほうが、人生を楽に生きられるんじゃねえのかな」
「今日の熊さんはサエてるね。そのとおりじゃが、どうすれば楽に生きられるかより、いかに生きづらいかを探すのが好きな人も多いようじゃ。まあ、さすがに『女房は貸すとも擂り粉木は貸すな』は、女房に失礼じゃと思うけどな」
「擂り粉木は貸すと減っちまいますからね。だけど、こんなの冗談に決まってるんだから、真面目に受け取って怒るほうが野暮ですよ」
「残念ながら『冗談だから』は、なんの言い訳にもならん。悪趣味な冗談ひとつで、人格全体を念入りに否定されるばかりか、すべてを失うことにもなる」
「そっか、それでか。このあいだおはな坊の店で、煮魚の白子が出てきたから『おはなちゃん、白子ってなんだか知ってるか』って聞いたら『やめてよ』って顔を赤くするもんだから、冗談で『うぶなねんねじゃあるまいし』って言ったら、急に怒りだしやがって」
「お前はダウンタウンブギウギバンドか! それは、おはな坊が怒るのも無理はない」
「へえ、気をつけやす。男と女がらみ以外ではどうですか」
「そうさな、『子はかすがい』や『子をもって知る親の恩』あたりは、子どもがいない人への配慮が足りんと言われるかもしれん。『親思う心に勝る親心』や『親の意見と茄子の花は千にひとつも仇はない』は、毒親育ちの人にとっては不愉快なことわざじゃろうな」
「そう言われればそうですけど、それを言い出したらキリがないっていうか……」
