ライフ

【新刊】アジアを舞台に活仏転生から食糧危機までを描く『香君』など4冊

 暦の上では夏が始まり、汗ばむ日も増えてきたこの時期。涼しい部屋のなかで読書を楽しんではいかがだろうか。おすすめの新刊4冊を紹介する。

『香君』

『香君』

『香君』上橋菜穂子/文藝春秋/上下巻各1870円

 幼い頃からニオイの発する“感情”が分かるアイシャ。帝国の視察官マシュウの一計で活き神様「香君」に仕える。帝国が各藩を統べてきた道具=奇跡の稲に迫る“病害”。 アイシャは植物、昆虫、微生物、土壌などが互いに影響し合うシステムの不思議にも目覚めていく。けなげな少女の冒険ファンタジーにして飢餓や飢饉に関わる統治小説でも。上橋さんならではの奥深い世界だ。

土偶

『土偶を読む図鑑』

『土偶を読む図鑑』/竹倉史人/小学館/1980円

 縄文の土偶は人体像ではなく「植物をかたどった精霊像」。考古学会がどん引きする新説でサントリー学芸賞を受賞(2021年)した著者が豊富なヴィジュアル素材で自説を解説。ぼってり腰もユーモラスな「縄文のビーナス」がトチノミとマムシをかたどったものだったとは(俯瞰で知る頭部の模様にびっくり)。堅果類、穀類、芋類などのモチーフから縄文人の暮らしの実像が立ち上がる。

『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』

『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』

『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』/東畑開人/新潮社/1760円

“人に迷惑をかけない”という考え方ってすごく淋しい。共同体(お互い様)の消滅に思えるから。著者は現代をこう見る。社会が断片化、個人が孤立し、夜を航海する小舟のようだと。そんな時代特有の悩みや苦しみに光を当て、具体的に“こんな考え方はどうですか”と補助線を引く。短期のケアと長期のセラピー、どちらにも効く。著者の発明と言いたくなる寄り添い文体も画期的。

『やめるな外科医』

『やめるな外科医』

『やめるな外科医』/中山祐次郎/幻冬舎文庫/693円

 シリーズ1作目で25才の研修医だった雨野隆治も、この4作目では30才。放置すれば死んでしまう手術を頑として拒む老女、多発性骨転移で衰弱していく若い葵、恋人はるかに突きつけられた別れ、任された手術は成功したと思いきや患者が術後出血し……。こんな誠実で素敵な医師がホントにいるの!?と汚れた大人の心で思うけれど、やっぱり今回もじんわり感動。涙腺がゆるむ。

文/温水ゆかり

※女性セブン2022年5月26日号

関連記事

トピックス

「木下MAOクラブ」で体験レッスンで指導した浅田
村上佳菜子との確執報道はどこ吹く風…浅田真央がMAOリンクで見せた「満面の笑み」と「指導者としての手応え」 体験レッスンは子どもからも保護者からも大好評
NEWSポストセブン
石破首相と妻・佳子夫人(EPA=時事)
石破首相夫人の外交ファッションが“女子大生ワンピ”からアップデート 専門家は「華やかさ以前に“上品さ”と“TPOに合わせた格式”が必要」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ノックでも観客を沸かせた長嶋茂雄氏(写真/AFLO)
《巨人V9の真実》王貞治氏、広岡達朗氏、堀内恒夫氏ら元同僚が証言する“長嶋茂雄の勇姿”「チームの叱られ役だった」
週刊ポスト
中村芝翫の実家で、「別れた」はずのAさんの「誕生日会」が今年も開催された
「夜更けまで嬌声が…」中村芝翫、「別れた」愛人Aさんと“実家で誕生日パーティー”を開催…三田寛子をハラハラさせる「またくっついた疑惑」の実情
NEWSポストセブン
現場となったマンホール
【埼玉マンホール転落事故】「どこに怒りを…」遺族の涙 八潮陥没事故を受けて国が自治体に緊急調査を要請、その点検作業中に発生 防護マスク・安全帯は使用せず
女性セブン
ロシアのプーチン大統領と面会した安倍昭恵夫人(時事通信/EPA=時事)
安倍昭恵夫人に「出馬待望論」が浮上するワケ 背景にある地元・山口と国政での「旧安倍派」の苦境
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《秘話》遠野なぎこさんの自宅に届いていた「たくさんのファンレター」元所属事務所の関係者はその光景に胸を痛め…45年の生涯を貫いた“信念”
週刊ポスト
政府備蓄米で作ったおにぎりを試食する江藤拓農林水産相(時事通信フォト)
《進次郎氏のほうが不評だった》江藤前農水相の地元で自民大敗の“本当の元凶”「小泉進次郎さんに比べたら、江藤さんの『コメ買ったことない』失言なんてかわいいもん」
週刊ポスト
川崎、阿部、浅井、小林
女子ゴルフ「トリプルボギー不倫」に重大新局面 浅井咲希がレギュラーツアーに今季初出場で懸念される“ニアミス” 前年優勝者・川崎春花の出場判断にも注目集まる
NEWSポストセブン
6年ぶりに須崎御用邸を訪問された天皇ご一家(2025年8月、静岡県・下田市。撮影/JMPA)
天皇皇后両陛下と愛子さま、爽やかコーデの23年 6年ぶりの須崎御用邸はブルー&ホワイトの装い ご静養先の駅でのお姿から愛子さまのご成長をたどる 
女性セブン
「最高の総理」ランキング1位に選ばれた吉田茂氏(時事通信フォト)
《戦後80年》政治家・官僚・評論家が選ぶ「最高の総理」「最低の総理」ランキング 圧倒的に評価が高かったのは吉田茂氏、2位は田中角栄氏
週刊ポスト
スーパー「ライフ」製品が回収の騒動に発展(左は「ライフ」ホームページより、みぎはSNSより)
《全店舗で販売中止》「カビだらけで絶句…」スーパー「ライフ」自社ブランドのレトルトご飯「開封動画」が物議、本社が回答「念のため当該商品の販売を中止し、撤去いたしました」
NEWSポストセブン