アドバイスの真意が父には伝わっていなかったのだろう。父のSNSは確かに、フォローしあっているユーザー相手でなければ詳しいプロフィルや投稿は見られない設定になっていた。だが友人欄を見ると、絶対にリアルでの知人とは思えない若く美しい女性たち、日本人と思われる女性だけでなく、ナイスバディの若い外国人女性のプロフィル写真がズラリと並んでいた。松井さんは、そうした父の傾向が、相手方に見透かされているのでは、と見ている。
「これは男女年齢関係ないかもしれないですが、美しい異性からコンタクトがあれば、誰でも最初はときめくと思うんです。それで父は、どこの誰かもわからない美しい女性(かもしれないユーザー)からの友だち申請を受け入れていたのでしょう。そして彼女たちのアカウントに、自身の個人情報を細かく公開していた。そういう甘さが、狙われる原因ではなかったかなと」(松井さん)
筆者は以前、架空の人物名や他人の写真を勝手に使ったアカウントや、他人のアカウントを乗っ取り詐欺に利用している組織を取材した。彼らはターゲットの近くに「居住している」という嘘のプロフィルのユーザーを作り、SNSで接触した人に「会えるのではないか」という淡い期待を抱かせ、詐欺などに利用していた。振込先として指定する銀行口座は、多重債務者が違法に売却したものなどが利用されていると推察され、被害に気が付いたとしても、警察の捜査で相手方を特定したり、被害金を回収するのは非常に難しい。同じような方法によって、松井さんの父も騙されていたのだ。
「うちの場合は、私や母、私のきょうだいにもこの事実が知れ渡り、父は反論する余裕もなく恥ずかしそうに俯くばかりでしたが、被害がこれ以上増えず良かったと思っています。何人かの女性と連絡を取っていたようですが、ほとんどがビットコインや存在するのかもわからない投資話への勧誘でした」(松井さん)
女性ばかりが被害に遭っていると思われがちな「国際ロマンス詐欺」だが、こうした男性の被害は本当に少ないのだろうか。男性を狙ったこの手の詐欺はずっと存在し続けているにも関わらず、被害者が恥ずかしくて声を上げないからこそ、表舞台で語られないだけではないのだろうか。