町議会で説明する山口県阿武町の中野貴夫副町長と花田憲彦町長(時事通信フォト)

誤送金について町議会で説明する山口県阿武町の中野貴夫副町長と花田憲彦町長(時事通信フォト)

 授かり効果とは、一度手に入ったもの、手に入ると思ったものを奪われてしまうと、人はそれに苦痛を感じる心理のこと。「保有効果」とも呼ばれ、一旦自分が手に入れたものに愛着を感じ、手放すのが惜しくなるという心理的傾向でもある。また、一度所有してしまうと、それを手に入れる以前に思っていた以上の犠牲を払ってでも手放したがらないという傾向もあると言われる。

 そしてこれが、田口容疑者の心理に関係するのではないかと思う。彼は、自分の口座に振り込まれた大金を手放すのが惜しくなったのだ。自分の金ではないと分かっていても、返還すると自分が損をするように感じ、ギャンブルできる機会を奪われてしまうような気がしたのではないだろうか。

 山口県阿武町の誤送金が判明した4月8日、最初は返還に同意していたが、到着した銀行の玄関前で突然態度を変えたという田口容疑者。同行していた職員とどんなやり取りがあったのか、田口容疑者の心境がどう変化していったのかは分からないが、「金を返したくない、オンラインカジノで賭けたい」という誘惑が勝ったのだろう。公表された出金記録では、その日からお金を引き出している。

 代理人の弁護士は会見で「金を所持しておらず、現実的に返還は厳しい」と明らかにした。誤送金された4630万円も、34回にわたって出金しオンラインカジノで使いきったと供述しているという。だとすれば、おそらく容疑者の心の中には、「金に糸目をつけずギャンブルをしてみたい」、「思い切り金を使ってみたい」という願望がずっとあったのではないだろうか。誤送金は、そんな願望を実現する絶好の機会を容疑者に与えてしまった。町職員に対する「僕は悪くない」という言葉には、そんな心理が潜んでいる気もする。

 カジノのアカウントにお金はプールされていないのか、一度も勝っていないのか、真相はまだ何も見えてこない。町職員に「お金はすでに動かした。もう戻せない。犯罪になることは分かっている。罪は償う」と語ったという田口容疑者は、弁護士に「少しずつでも返していきたい」とも話しているという。

 綾瀬さん演じる麗子がきっぱりした口調で言っていたように、授かり効果は人に罪を犯させるような強い感情や衝動を生むこともある。結果、田口容疑者が払う犠牲は、彼の想像を越えるものになるだろう。

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