それからもう1つ。水天宮さまは水運、つまり旅の守り神でもあるけれど、お産の神様でもあって、そっちの方が有名よね。でも、私が見かける抜け殻のCAたちは、旅の神様にだけ愛されていると見た。……決めつけちゃいかん? そりゃそうだけど、40女が独身かどうかなんて、見りゃわかるよ。スーパーマーケットで買い物していたってわかる。ピーマン1つつまみあげる手の所在なさは、働く母さんとはまるで違うもの。てか、私も同じ独り身の道を長々と歩いているし。
で、北九州空港から帰京する飛行機の中に話を戻すと、飲み物のサービスで向こうからCAのお姉さん2、3人がこちらに近づいてきたの。その中の40代らしき知的な美女に目が釘付けになったのよ。首のスカーフの畳み方がとても繊細で美しくて、コーヒーを注文したついでに思わずポンポンと自分の首あたりを叩きながら、「素敵! どんなふうになっているの?」と聞くと、「あ、ちょっと畳んだだけです」と小声で言うから、「いい気合ですね」と私。マスクから出た目と目で互いに笑い合ってそれで終わり、だと思っていたんだけどね。
「さっきホメていただいてすごくうれしかったので、これ、気持ちです」
なんと、もうすぐ着陸態勢に入る直前に、さっきのスカーフCAが恥ずかしそうに小さなビニール袋に入れたキャンディーを差し出してくれたのよ。名残り惜しかった唐津の旅の最後の最後、トドメのようなひと幕になんかもう胸が熱くなっちゃった。
そういえば死んだ母ちゃんが「人には添うてみろ、馬には乗ってみろ」とよく言っていたけど、そうそう。先入観やイメージなんか何の意味もない。近くで見ないと何もわからないんだなと思ったのでした。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2022年6月9日号