伊東の館を抜け出し、険しい峠を越えて韮山まで歩いてきた八重姫が、「頼朝と政子の結婚」を知らされたショックは計り知れない。静堂の前に置かれた説明書きには、入水の様子がこう記されている。
《重い足を引きずりながら真珠ヶ淵までたどりついた八重姫は、涙にくれるのでした。そして「今は世に生きる何の望みもなし。せめて我が身を犠牲にして、将来共末長く不幸な女人達の守護神となりましょう。」…そう言い残して、近くにあった梛の一枝を取ると、真珠ヶ淵に身を投じたのでした》
八重姫が身を投げたとされるのは真珠院の南にある「真珠ヶ淵」と呼ばれる場所で、現在の狩野川、もしくは支流の古川と伝わる。ドラマでは“鎌倉付近の川で起きた事故”という設定だったが、伝承では八重姫は頼朝と政子が結婚した直後の治承四年(1180年)七月、つまり大河ドラマでは第3話くらいの段階で世を去っていたことになる。
頼朝と政子、そして義時が暮らす家の目と鼻の先で自ら命を絶った八重姫の短い生涯は悲しさに満ちているが、ガッキー演じる「健気に義時を支える八重」が現代に甦り話題を集めた。大河の放送開始以降、眞珠院には八重に思いを馳せる人々が多く訪れ、小さな梯子を奉納している。三谷幸喜氏の斬新な脚本もまた、悲恋の姫の供養になっているのかもしれない。