横浜の監督としては投手の“分業”を徹底した権藤(右。左は佐々木主浩/時事通信フォト)

横浜の監督としては投手の“分業”を徹底した権藤氏(右。左は佐々木主浩氏/時事通信フォト)

 ルーキーイヤーに凄まじい成績を残した権藤が類い希な才能の持ち主であることは疑いようがないが、稲尾の超人的な活躍はそれを凌駕したとする言い方である。権藤は野手転向を経て1968年に投手に復帰するも、輝きを取り戻すことはなく、引退となった。

「もちろんプロ入りした頃のような球が投げられない悔しさはありましたが、辞めることの悔しさはなかったですね。投げすぎて潰れたのか、投げ方が悪くて潰れたのか。自分では投げ方が悪くて潰れたと思っています」

 引退後に横浜の監督を務めた際は、自身の教訓を生かして投手の分業制を進めたと言われている。ストッパーの“大魔神”こと佐々木主浩の起用も勝ち試合の1イニング限定だった。

「私の現役時代がどうということではなく、野球が変わっていったということです。はっきり言って、昔は野球のレベルが低く、特に打者のレベルが低かった。それが道具や技術の進化もあって、向上したんです。ピッチャーも進歩しているが、投げるのは“もともとの素材”の要素が強く、打者ほどの進歩はない。そう考えれば、チームでの戦い方が大きく変わるのは当然でしょう」

 当人は淡々と振り返ったが、やはり観る者には鮮烈な印象を残している。

「権藤さんのピッチングは凄かったね。バネがあって、タメがありました」

 そう振り返るのは、「エースのジョー」として1960年代の巨人を支えた城之内邦雄だ。1年目の1962年から24勝(12敗)をあげ、入団5年でプロ100勝に到達するというスピード記録を誇る城之内だが、当時をこう振り返る。

「権藤さんは、コントロールがよかった印象が強いですね。打撃もよくて、ホームランを打たれたこともある。稲尾さんも権藤さんと同様に、フォームがよくて、コントロールがよかった。

 ルーキーイヤーからの活躍という意味では、当時はノンプロの社会人野球のレベルが高かったことも見逃せないでしょう。僕もノンプロ(日本麦酒)からですが、1年先にブリヂストンタイヤからプロ入りした権藤さんが大活躍した。“ノンプロのエースはプロ野球でエースになれる”という自信がありましたね。当時のノンプロは練習時間が長かったんです。週6日、朝から晩まで練習でしたから」

(第3回へ続く)

※週刊ポスト2022年6月10・17日号

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