ライフ

【対談】道尾秀介氏×高橋ユキ氏「犯罪をリアルに書くとリアリティ確保できない」

犯罪の描き方にも秘密があるという(イメージ)

犯罪の描き方にも秘密があるという(イメージ)

 犯罪を描く上で、フィクションとノンフィクションにはどんな違いがあるのか。犯罪小説の名手である道尾秀介氏と、犯罪ノンフィクションの気鋭、高橋ユキ氏が特別対談。高橋氏が脱走犯たちを取材した新刊『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)を題材に作品論を語り合った。【前後編の後編。前編から読む

 * * *
道尾:しかし、今回読ませていただいたこの本(『逃げるが勝ち』)の「リアル」は、「物語」がないどころか、めちゃくちゃ面白くてビックリしました。この本を読んだ人みんなが感じると思うんですけど、もしも小説で書いたら、読者の怒りを買いそうな出来事がたくさん出てくるじゃないですか。「なんだ、こんなリアリティのないものを書きやがって」と、クレームをつけられるような。

高橋:えっ!

道尾:例えば、大阪の警察署(富田林署)から脱走して、自転車で日本一周しようとした逃走犯は、その道中、職務質問までされたのに、どうしてバレずに逮捕もされなかったのか。本書に書かれている「リアルな理由」を、もし僕が小説で書いたなら、編集者とか校閲さんから赤字が入ると思います。「いくらなんでも警察が間抜けすぎでは?」とか。

高橋:でも現実には、いるんですよねえ。

道尾:「リアル」と「リアリティ」の違いは、本当に面白い。小説であまりに「リアル」を書いちゃうと、「リアリティ」を確保できないという。

高橋:ミステリー小説の場合は、登場人物たちのスペックが高いですよね。基本的には、犯人も警察もみんな真面目で頭がいい。

道尾:そうじゃないとトリックを仕掛けられないし、謎も解けなくなっちゃいます。

高橋:私も取材を始めたばかりの頃にはドラマチックな話を予想して現地に入りましたが、ぜんぜん違いました。ときにはプッと噴き出してしまうような、ドタバタ劇でしたね。

道尾:塀のない刑務所(松山刑務所大井造船作業場)から逃げ出し、島に潜伏した後、海を泳いで渡った逃走犯。読み終えたとき、実は泣いちゃったんですよ。もう本当に、取材力に感動しました。彼が潜伏していた町の人々が、ぜんぜん怖がっていないどころか、「あの子、どうしているかしら」と懐かしく振り返る。当時の報道だと、のどかな島を恐怖に陥れた脱走犯として描かれているわけですよね。こんな状況は、逆立ちしても小説家の頭からは出てきません。

関連記事

トピックス

1990年代にグラビアアイドルとしてデビューし、タレント・山田まりや(事務所提供)
《山田まりやが明かした夫との別居》「息子のために、パパとママがお互い前向きでいられるように…」模索し続ける「新しい家族の形」
NEWSポストセブン
新体操「フェアリージャパン」に何があったのか(時事通信フォト)
《代表選手によるボイコット騒動の真相》新体操「フェアリージャパン」強化本部長がパワハラ指導で厳重注意 男性トレーナーによるセクハラ疑惑も
週刊ポスト
太田房江・自民党参院副幹事長に“選挙買収”工作疑惑(時事通信フォト)
【激震スクープ】太田房江・自民党参院副幹事長に“選挙買収”工作疑惑 大阪府下の元市議会議長が証言「“500万円を渡す”と言われ、後に20万円受け取った」
週刊ポスト
2024年5月韓国人ブローカー2人による組織的な売春斡旋の実態が明らかに
韓国ブローカーが日本女性を売買春サイト『列島の少女たち』で大規模斡旋「“清純”“従順”で人気が高い」「半年で80人以上、有名セクシー女優も」《韓国紙が哀れみ》
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【国立大に通う“リケジョ”も逮捕】「薬物入りクリームを塗られ…」小西木菜容疑者(21)が告訴した“驚愕の性パーティー” 〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
国技館
「溜席の着物美人」が相撲ブームで変わりゆく観戦風景をどう見るか語った 「贔屓力士の応援ではなく、勝った力士への拍手を」「相撲観戦には着物姿が一番相応しい」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【20歳の女子大生を15時間300万円で…】男1人に美女が複数…「レーサム」元会長の“薬漬けパーティ”の実態 ラグジュアリーホテルに呼び出され「裸になれ」 〈田中剛、奥本美穂両容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
前田亜季と2歳年上の姉・前田愛
《日曜劇場『キャスター』出演》不惑を迎える“元チャイドル”前田亜季が姉・前田愛と「会う度にケンカ」の不仲だった過去
NEWSポストセブン
timelesz加入後、爆発的な人気を誇る寺西拓人
「ミュージカルの王子様なのです」timelesz・寺西拓人の魅力とこれまでの歩み 山田美保子さんが“追い続けた12年”を振り返る
女性セブン
不倫報道の渦中にいる永野芽郁
《私が撮られてしまい…》永野芽郁がドラマ『キャスター』打ち上げで“自虐スピーチ”、自ら会場を和ませる一幕も【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
電撃引退を発表した西内まりや(時事通信)
電撃引退の西内まりや、直前の「地上波復帰CMオファー」も断っていた…「身内のトラブル」で身を引いた「強烈な覚悟」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 自民激震!太田房江・参院副幹事長の重大疑惑ほか
「週刊ポスト」本日発売! 自民激震!太田房江・参院副幹事長の重大疑惑ほか
NEWSポストセブン