芸能

火野正平『にっぽん縦断 こころ旅』を見て「セクハラとは何か」を考えた

番組公式サイトより

番組公式サイトより

 はからずも偏狭な世の中になりつつあると言われる。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が旅番組について考察した。

 * * *
 そろそろ熱中症が心配になる季節。熱中症を「ね、チューしよう」に言い換えるこの人のセンスに舌を巻く。それをテレビで堂々と披露し、番組を制作しているのがNHKというのも目を惹く。そう、74才の火野正平さんが相棒「チャリオ」(自転車の愛称)と日本中1万7068kmを走破、千日を超えて旅を続けている番組『にっぽん縦断 こころ旅』(NHK BS)です。すでに11年もの間続いていることを見ても、いかに中高年の視聴者を中心に人気があるのかがわかります。

 この番組は実にユニーク。3つの特徴が際立っています。

 まず、旅番組でありながらも観光名所や有名な旧跡にとらわれないこと。視聴者からの手紙に記された「こころの風景」を求めてひたすら移動していく。手紙にしたためられているのは過去への切ない思いや願い、個人の苦しみや喜びといったこと。人生というものがリアルに伝わってきます。

 2つ目の特徴として、目的地に到達することが全てではないこと。火野さんが走りながら見せていくのは、実は旅の「途上」のディテイルです。山を這う道、海辺、古い神社、沼、商店。ひなびた集落や田舎の暮らし。食堂で各土地の味覚を堪能する。雄大で美しい自然風景もあれば、土砂降りの中を進むこともある。寒さ暑さ、疲労、腰痛。高い橋は高所恐怖症だからおびえる。坂道をハーハー苦しそうに走ることも含めての、74才自転車旅のリアル。

 そもそも、旅人が火野正平でありシナリオが無いのですから、展開は視聴者の想像を飛び超えていく。オチャメで好奇心一杯、鳥やカエルやありんこの声にも耳を傾ける火野さんの姿はまるでピュアな小学生そのもの。一方で、母性をくすぐる低音の響きで時にダンディな色気も漂わす。

 何よりこの旅人は、「下からの目線」を持っていて、撮影されるシロウトの気持ちをよく察しています。テレビの撮影隊や芸能人が、一般人を振り回すことを「よし」としない細やかな配慮が伝わってくる。だから11年間も続いてきたのだろうと思います。

 最後にもう一つ特徴として、このご時世で「#ミートゥー」にならずに快走し続けていること。例えば旅の途中、乗り込んだ飛行機のCAさんに「べっぴんだのう」と握手を求め、なかなか機体から下りない。ある時は、眼鏡が曇って前が見えないのを口実に、女性店員の体に手を回す。

(名場面編集・月曜編では「いいオジサマは絶対真似をしてはいけません」とすかさず駒村多恵アナウンサーが注意コメントを差し挟んだり)

関連キーワード

関連記事

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン