侮辱罪の厳罰化についてさらに議論が高まったのが、誹謗中傷を受けていたプロレスラーの木村花さんが亡くなった2020年の出来事だ。
今回の厳罰化の可決を受けて、木村花さんの母で「REMEMBER HANA」代表理事・木村響子さん、「一般社団法人関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」副代表理事でもある松永拓也さん、1999年から誹謗中傷と闘ってきたスマイリーキクチらが記者会見を行った。
「誹謗中傷は犯罪だとみなさんに知ってほしくて、見たくもない書き込みを集めて起訴の準備をした。やっとの思いで起訴できたと思ったら、ニュースで科料9000円と大きく報じられた。『それなら9000円払って言いたいことを言った方がいい』という雰囲気になり、抑止力にならなかった」と当時の悔しさを振り返る木村さんは、「やっとという思い」「これで終わりではなく、ここからが始まりです」と言う。
スマイリーキクチは1999年頃から、インターネット掲示板に「殺人事件の犯人だ」という事実無根の書き込みをされ、瞬く間に拡散された。それを受けて誹謗中傷が始まり、「毎日、死ねと書き込みされる」ようになったという。仕事を休止に追い込まれ、体調にも影響が出た。いまは学校などで講演を行ったり、自らの被害経験をインターネットの啓発活動に生かす。
「誹謗中傷は、砂場に磁石を入れるように一瞬で広がっていく。ようやく厳罰化にたどり着いたという思い。1907年に作られた法律をそのまま使っていたのがおかしい。子どもたちに自分の経験を話すと『自分なら死んでた』『なんで生きていたんですか』と聞かれる。それくらい、ネットと命の距離は近いことを知ってほしい」
「いつも学校でお話ししているんですが、投稿する前に、まず一度、止める。この“止”という漢字の上に漢字の“一”を足すと“正”という漢字になるので、感情をそのままぶつけずに、一度止めて、そして『これ問題が起きないかな』とか『これ、賠償金を払わなきゃいけないことになるかな』とか。『みんながやってるから』じゃなく、『みんながやってるけどやらない』って気持ちにさせること。そういう、正しいという感情をもってほしい」と語る。