ライフ

流行する場所も規模も変化するエボラウイルス「貧困」の影響も

エボラウイルス流行の背景は複雑

エボラウイルス流行の背景は複雑

 今もその対応に悩まされている新型コロナウイルスだけでなく、人類は様々な感染症とともに生きていかなければならない。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、エボラウイルスについてお届けする。

 * * *
 エボラ出血熱は1976年、スーダン共和国のヌザーラという町で、初めて患者が確認されました。この地域の人々は、サバンナやジャングルに点在する小さな集落に親族を中心に集まって暮らし、ヌザーラはそうした集落群の中心地でした。そこにある綿工場で働いていた男性がまず倒れ“出血しながら”死亡。患者が続発し、工場で働いていた人やその家族、友人など35人が死亡しました。

 この病はまもなく近郊の町にも拡大します。患者の一人が町の病院を受診したのです。するとこの患者の体液や血液、排せつ物や吐瀉物に接触することで、医療従事者や他の入院患者に悲劇的な院内感染を起こしました。病院に入院していた患者213人中93人がエボラウイルスに感染、さらに病院関係者の3分の1が感染・発症し、うち41人が死亡しました。この事態にまだ動ける患者や関係者は病院から逃げ出し、ここを起点にエボラウイルスが地域に拡散したのです。

 これが、最初に確認されたエボラ出血熱の流行でした。

 さらに、この2か月後、今度はザイール(現コンゴ民主共和国)のヤンブクという村のベルギー人のシスターたちが無償で運営する伝道病院を悪夢が襲います。ここに激しい下痢と血便、鼻血の男がやってきたのです。医師はおらず、診断もつきません。

 シスターらによって抗生物質の投与やビタミン注射、脱水に対する輸液などの医療行為が行なわれていましたが、一本の注射器と注射針を何百回も使いまわすという信じがたい行為も常態化していました。ここでエボラ患者の注射器を使いまわしたことによって、感染者が激増。シスターらは患者や同僚が吐血し、鼻血を流し、急性の下痢に苦しみながら死線を彷徨う脇で祈りを捧げるしかなく、無線で助けを懇願し、ようやく政府やWHOが対応することになったのです。

 WHOはこの死病の原因究明に乗り出し、世界中の主要な研究施設がその病原体の同定を開始します。その結果、電子顕微鏡に浮かび上がったのは、クエスチョン・マークのような細長く、コイルのように巻いた新しいウイルスでした。この病気が最初に出現した地域に流れている川の名前に因んで「エボラ」と名付けられました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・イメージ 写真はいずれも当該の店舗、販売されている味噌汁ではありません)
《「すき家」ネズミ混入味噌汁その後》「また同じようなトラブルが起きるのでは…」と現役クルーが懸念する理由 広報担当者は「売上は前年を上回る水準で推移」と回答
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン