1975年、警視庁の要人警護部隊、SP(セキュリティ・ポリス)が発足し、要人警護の実施訓練を披露(時事通信フォト)

1975年、警視庁の要人警護部隊、SP(セキュリティ・ポリス)が発足し、要人警護の実施訓練を披露(時事通信フォト)

「出てきた容疑者に気が付かないだけでなく、ゆっくり歩いて至近距離まで近づけてしまった。誰がどこをどのように警戒するのか、区域の役割分担がうまく行われておらず、互いの連携もうまくいっていなかったと思われる。結果、発砲されてはじめて不審者に気が付いた警察官が多かったはずだ。警護要員の人数も足りなかった」

 警護人数については公表されていないが、専門家が映像を見る限り、少ないということのようだ。

 もし容疑者がいきなり走って車道に飛び出していれば、警護にあたっていた警察官も観衆も不審者だとすぐに気が付いただろう。だが容疑者はゆっくりと変わった様子も見せずに車道を渡っていた。そして、肩掛けカバンから取り出した手製の銃は、ドラマなどで見るような銃の形ではなかった。黒く長い筒は望遠鏡のように見えたのかもしれない。そんなことが起こるはずがない、という思い込みが警護要員にも観衆にもあり、誰もが容疑者が近づくのを見逃した。

 急に演説日程が決まったことが要因ではという指摘に、前出の鬼塚本部長は「どのような日程にも対応できるよう体制を構築すべきだ」と述べた。だが、警察関係者は自らの訓練経験から「奈良県警本部や管轄所轄署から招集された警戒員らがいかに訓練されていても、普段は刃物への対応が訓練の中心であり、銃撃への訓練はほとんどされていなかったのではないか」と指摘している。他の警察関係者も「襲撃後、他に不審者がいる可能性より、制圧された容疑者の確保を優先していたようにも見え、構築されていたはずの体制は、実際の現場でうまく機能しなかったようだ」と話す。

 安倍氏を警護していた警視庁SPが1人だったことについて、この警察察関係者は首相を辞任してから2年経ち、警護警備態勢が軽減されていた可能性も指摘し、警察幹部は「安倍氏はその政策や言動が良くても悪くても批判を受けやすかったし、批判されていた。情勢を見れば、ほかの大臣経験者らより警護警備態勢を厚くしておけばよかったのだ」と悔やむ。

 今回の事態に、鬼塚本部長は険しい表情で「痛恨の極み」と唇を噛んだ。警察だけでなく我々一人一人も、日本はいつまでも安全なのだという意識や感覚を変えなければいけない時かもしれない。

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