ライフ

夏井いつきさんインタビュー【後編】「100年後に結論が出る」最終目標

夏井いつきさんの素顔に迫る

大人気の俳人、夏井いつきさんにロングインタビュー

 初代俳都松山大使で、現在放送中のMBS『プレバト!!』の劇的添削でも大人気の俳人、夏井いつきさん(65才)の女性セブン連載エッセイ『瓢簞から人生』が書籍化された。100年後を見つめる夏井さんの素顔に迫るロングインタビュー。【前後編の後編・前編から読む】

 * * *
 夏井さんの生家である家藤家は、明治44年に自営業として家串郵便局を開局。そこに交通事故で父親を亡くし、女学校を辞めた母が就職。母と結ばれた父は3代目の局長だった。昭和32年に長女伊月が、2年後に後の世界的チェリスト、ナサニエル・ローゼン夫人で俳人の次女、千津が誕生した。

 当時の実家はペパーミントグリーンの壁に、中庭を囲んだ2階建てと、明治44年の建物にしてはかなりモダンで、今では思い出の中にしかない空間を著者はこんなふうに描写する。〈局舎の扉を開くと、木造りのカウンター。正面に窓口が二つ、左手にもう一つ、切手や葉書を売る窓口。右端には、小さなスイングドアがあり、そこから上がり下りもできるようになっていた〉〈私たち姉妹は、折々当たり前のように局舎に出入りし、空いている机でお絵かきをして遊んだり、仕事をしている父の膝にのったりもしていたが、真っ黒で巨大な金庫は、子どもが近寄ってはいけないモノであった〉。

 また、2代目局長を引退する前から釣り三昧だった祖父の〈放蕩ジジイ〉ぶりも面白い。機械船と伝馬船を繰り、気ままに暮らす祖父に、著者は子供の頃、浜近くの〈知らない小母ちゃん〉の家に連れていかれ、縁側で1人、スイカを食べて過ごした生々しい記憶も。

〈私が大学生だった頃、母方の祖母が何かの話の流れで「いつきちゃんの名前も、お祖父さんのエエ人の名ぁをつけなはったらしいけん」とぽろっと呟いた。私は、あ! と思った。そういうことやったか、ジイサンと〉

「しかもエエ人は2人いたの。とんだジイサマでしょ。そしてダシにされた私はそれを、俳句に詠むと(笑)」

 その描写力は父の死に際してより鮮明になる。結果的に胃癌の判明から僅か3か月で逝った父に余命3年の診断が下ったのは、夏井さんが教師になった年の秋のこと。病名は隠し通すと決めた母と娘は、「年末年始は家で過ごせますね」という医師の言葉に素直に喜び、年越しに備えて父の好物〈鰊蕎麦セット〉を持ち帰ったりした。

 が、病状は3日で急変し、夏井さんは松山の病院まで3時間の道程を車で逆走することに。〈あの年、愛媛にも大雪が降った〉〈後部座席で、母の膝に頭をのせ横になっている父の熱は、どんどん上がっていった〉〈母が、きれいな雪があるところで車を止めて欲しいという。のろのろ運転の車列から抜け出し、畦道の近くに車を止めると、母は、蜜柑を入れていたビニール袋を摑み、雪の中に走り出た。畦道の誰も踏んでない雪をギュウギュウ固めてはビニール袋に詰め込む〉〈父の額に当てた雪は、あっという間に解ける。父の熱を冷ますため、私たちは何度も車を止め、何度も雪を取りに走った〉──。

関連キーワード

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン