1960年浅沼委員長の社会党葬で弔辞を読む池田(写真/共同通信社)

1960年浅沼委員長の社会党葬で弔辞を読む池田氏(写真/共同通信社)

 それだけではない。

 政府は5日後に臨時国会を召集し、池田自ら追悼演説を行なうことを決めた。その演説が歴史に残る追悼演説だった。山岸氏が続ける。

「池田さんは、〈沼(浅沼氏のこと)は演説百姓よ/よごれた服にボロカバン/今日は本所の公会堂/明日は京都の辻の寺〉という浅沼氏の農民運動時代の仲間の詩人(田所輝明)が作った詩を冒頭に読み上げて、民主主義の社会に暴力は一番いけない。こういう時に浅沼さんみたいに素晴らしい人を失ったのは日本としても日本国民としても大きな損失、悲しみだと追悼した。

 この名演説で池田内閣の評判が上がり、自民党は負けると思われた直後の総選挙で逆に議席を少し増やした。池田さんがそんなしゃれた演説をやれるわけがないと思っていたら、原案を書いたのは西日本新聞の記者出身で池田さんの総理秘書官だった伊藤昌哉氏(後に政治評論家)だった」

 選挙間近に起きたという状況も安倍氏銃殺事件と似ているが、岸田首相が警備責任者の処分をなかなか行なわず、追悼演説も人選が決まらずに延期されたのとは対応に決定的な差がある。

 池田のもとで浅沼事件の機敏な対応にあたった前尾、大平、宮沢はいずれも大蔵省出身の池田の後輩にあたる。池田がつくった「宏池会」はそうした大蔵省出身者を中心に、エコノミスト、有力財界人や秘書官の伊藤のようなマスコミ出身者など多彩な顔ぶれから構成される「最強の頭脳集団」だった。

本当の「聞く力」

「寛容と忍耐」をスローガンに掲げた池田は安保改定の混乱を乗り切り、政治を安定させると、自主憲法制定を謳った岸政権時代の安全保障重視路線から「軽軍備・経済優先」へと政策を大転換させた。

 戦後日本の政党政治を専門とする福永文夫・獨協大学教授は、論文「派閥構造から見た宏池会」のなかで宏池会が保守本流と呼ばれる理由をこう書いている。

〈池田派は、(軍備・法制など体制をめぐる)ハードな争点は棚上げにして、安保体制下で、軽軍備、経済大国をめざした。戦後の「経済一流」国家日本の推進役を果たしたことから、「保守本流」と呼ばれ、自らも誇示してきた〉

 自民党の派閥は、領袖を総理・総裁に担ぎ上げることを目的につくられた。いわば権力闘争の実戦部隊という面が色濃い。

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