神戸山口組の井上邦雄組長(時事通信フォト)
寺岡若頭は侠道会の池澤会長と兄弟分である。池澤会長は反山口組ではないが、兄弟分の縁も無下にしなかった。また侠道会は歴史的に浅野組と縁が深い。推測でしかないが、兄弟分である寺岡若頭と池澤会長が、自分たちの関与で抗争を終結させることで、浅野組の火の粉を振り払おうとしたと考えるのは自然だ。
井上組長引退説は、関東の独立団体からも、山口組傘下団体からも聞こえてきた。実際、その後、小林会長は井上組長と面談していた。今年、六代目山口組が神戸山口組から離脱した池田組(岡山)への攻撃中止命令を出した背景には、この会談があった。抗争終結は絵空事ではなかった。
どこで行き違いがあったのかは定かではない。が、その後、井上組長は引退を全否定、神戸山口組は引退説を六代目側のデマと通達した。
「寺岡若頭ははしごを外され、メンツを潰された。辞めるほかなかった」
警察筋はそう分析している。寺岡若頭も脱退を切り出せば、最悪、自身の絶縁は予想したろう。そうなっても若い衆に道筋を付け、黙って身を引くつもりだったに違いない。が、井上組長は寺岡若頭の子分も絶縁した。これで新たな火種が燻ってしまった。
一般社会を巻き込み続け、現実的な抗争終結の動きがあったにもかかわらず、現状維持を選択した神戸山口組……打開策は打って出るしかないのだが、さりとて報復の動きもない。大きな勢力差が生まれた以上、六代目山口組が急ぐ必要はまるでない。最近はマスコミにも「我々は(神戸山口組を)出た人らを、誰ひとり追い込んでいない」と、太陽政策を喧伝するほどだ。が、これも切り崩し策の一環である。膠着状態のまま、手をこまねいてるわけにもいくまい。仕掛けてこないから見逃すとはならない。
六代目山口組は、すでに神戸山口組のアキレス腱に爆薬を仕掛けているはずである。世論と警察の動きをみながらタイミングを計り、大きく爆発させる可能性はある。
【プロフィール】
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/フリーライター。1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。
※週刊ポスト2022年9月16・23日号
脱退を表明した寺岡若頭
建物から出てくる井上組長を出迎える寺岡若頭(右から2番目)