芸能

さかなクンモデルの映画『さかなのこ』 主演「のん」の存在感がもたらす「不思議なエフェクト」

のんが、お馴染みのコスチューム姿に (C)2022「さかなのこ」製作委員会

のんが、お馴染みのコスチューム姿でスクリーンに登場 (C)2022「さかなのこ」製作委員会

 魚類学者、タレントとして引っ張りだこのさかなクン(47)の半生を描く映画で、女優のん(29)が主人公ミー坊(男性)を演じる──性別にとらわれないキャスティングが話題の映画「さかなのこ」(東京テアトル配給、全国公開中)。本作がもつ魅力について、映画に造詣が深い小説家・榎本憲男氏が読み解く。*本記事は作品のネタバレを含みます。映画の内容に触れる箇所がありますのでご注意ください。

 * * *
 現在上映中の『さかなのこ』(監督・脚本:沖田修一)はのんの魅力に彩られたハートウォーミングな映画だ。

 のんの不思議な魅力とはいったいなにか。それを書く前に、この映画に仕組まれたキャスティングの彩について説明しておこう。

 本作『さかなのこ』は、子供の頃から魚に夢中で、獲るのも眺めるのも食べるのも大好きと言う変わった子供が、魚に夢中になりながら、自分の居場所を見つけようとする話である。──と書くとすぐにおわかりのように、主人公のモデルは、お魚好きのテレビタレントさかなクンである。そのさかなクンを演じるのがのんだ。つまり、男性のキャラクターに女優を当てているわけである。

幼少期も描かれる (C)2022「さかなのこ」製作委員会

ミー坊は幼少期から魚に夢中だった (C)2022「さかなのこ」製作委員会

 当たり前だが、のんの容姿がさかなクンに似ているからこのキャスティングになったというわけではないだろう。そしてこの危険で大胆な試みは意外にも成功した。また、この成功はのん以外では考えられないし、のんが巧みにキャラクターを演じたということによってもたらされたものではない。のんの存在感がキャラクターを新たに作り替え、映画のテーマをあぶり出したからである。では、のんという女優の存在感に潜むものはなにか。それは危うさとズレである、と僕は捉えている。

 さかなクンをモデルにした本作の主人公の名はミー坊。さかなクンが、実際に小学生時代に呼ばれていたあだ名だと言う。ミー坊は、とにかく魚が好きで、その好きさ加減がハンパなく、まわりから浮きまくっている。強い言葉を使えば異常である。そして、私たちは、正常と異常との間に絶え間なく線を引き、異常を排除するメカニズムがいたるところで作動するような社会で暮らしている。

 しかし、ミー坊にとっての高校時代は、その異様さで馬鹿にされたり、呆れられたりしながらも、居心地のいい空間だった。やがて、ミー坊は「お魚の博士になる」決心をする。これは、なかなかうまい手(?)だ。博士というスペシャリストになってしまえば、いくら異常だって、安定的な地位を保障されるというわけだ。

(C)2022「さかなのこ」製作委員会

多くの仲間に囲まれたミー坊の高校時代(C)2022「さかなのこ」製作委員会

 しかし、これが痛いところだが、ミー坊は勉強ができない。進路指導で、数学と英語はできなきゃ駄目、と先生にたしなめられるシーンがあるが、たしかに、いくら魚に詳しくても、英語で論文ひとつ読めないようでは、博士を名乗るのはキビシい。かくして、博士の道は閉ざされ、高校卒業後、ミー坊は社会の中で、居場所を求めてさまようことになる。さて、のんの存在感がじわじわと増してくるのはここからだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン