ライフ

【逆説の日本史】後醍醐帝が吉野に持ち出した「剣」は果たして「偽物」だったのか?

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第九話「大日本帝国の確立IV」、「国際連盟への道2 その8」をお届けする(第1353回)。

 * * *
 三種の神器とは、あらためて記せば「皇位の象徴として天皇家が代々伝えた三種の宝物(鏡、剣、玉)」で、その名称は「八咫鏡」「草薙剣(別名、天叢雲剣)」「八坂瓊曲玉」である。

 そして、平安時代末期に「御所に保管されていた三種の神器」は安徳天皇を擁した平家によって持ち出され、「剣」は海に沈められ「二度と戻らなかった」はずである。しかし、実際にはその後の歴史にも「御所に保管された三種の神器」は出てくる。

 すでに述べたように、室町時代初期に後醍醐天皇は宮中から三種の神器を「持ち出し」、吉野の山奥に逃げた。ここのところを正確に言うと、後醍醐天皇は足利尊氏によって三種の神器を「接収」され、尊氏はそれを北朝の光明天皇に渡した。しかし、そのあと吉野に脱出した後醍醐は「渡したのは偽物」と言い出したのである。その後、南朝が一時勢いを盛り返したとき、北朝が保持していた「偽物」は南朝に接収された。だから、後醍醐の言葉が本当であったかわからない。

 しかし、神器の所有者は間違い無く南朝であった。後醍醐の子孫である後亀山天皇が北朝の後小松天皇にそれを「返還」するまで、神器は南朝が保持していたことになる。だからこそ、南朝正統論が出てくるわけだが、ここでのポイントはいつの間にか「剣」は「復活」していたことだ。念のためだが、壇ノ浦に沈んだ「剣」は二度と戻らなかった。だから後醍醐が「持ち出し」た「剣」は、あきらかにそれとは別モノなのである。そもそも、ヤマトタケルが宮中から持ち出して以来そのまま名古屋の熱田神宮に祀られている「剣」との関係は、いったいどうなるのか?

 もちろん、これはどちらかが本物でどちらかが偽物という問題では無い。私もかつて理解が不足していて、三種の神器についてはいくつか予備つまりレプリカ(複製)が何セットか用意されていたと考えていたのだが、じつはこういう考え方は根本的に間違っていた。「剣」で言えば、壇ノ浦に沈んだ「剣」も後醍醐が持ち去った「剣」もすべて「本物」であって、複製では無い。もちろん「最初の一振り」は熱田神宮に祀られているものだが、それが「オリジナル」でのちに何種類もの「レプリカ」が作られたという西洋的理解をしてはいけない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者が逮捕された
《不動産投資会社レーサム元会長・注目の裁判始まる》違法薬物使用は「大きなストレスで…」と反省も女性に対する不同意性交致傷容疑は「やっていない」
NEWSポストセブン
女優・福田沙紀さんにデビューから現在のワークスタイルについてインタビュー
《いじめっ子役演じてブログに“私”を責める書き込み》女優・福田沙紀が明かしたトラウマ、誹謗中傷に強がった過去も「16歳の私は受け止められなかった」
NEWSポストセブン
告示日前、安野貴博氏(左)と峰島侑也氏(右)が新宿駅前で実施した街頭演説(2025年6月写真撮影:小川裕夫)
《たった一言で会場の空気を一変》「チームみらい」の躍進を支えた安野貴博氏の妻 演説会では会場後方から急にマイクを握り「チームみらいの欠点は…」
NEWSポストセブン
中国の人気芸能人、張芸洋被告の死刑が執行された(weibo/baidu)
《中国の人気芸能人(34)の死刑が執行されていた》16歳の恋人を殺害…7か月後に死刑が判明するも出演映画が公開されていた 「ダブルスタンダードでは?」の声も
NEWSポストセブン
13日目に会場を訪れた大村さん
名古屋場所の溜席に93歳、大村崑さんが再び 大の里の苦戦に「気の毒なのは懸賞金の数」と目の前の光景を語る 土俵下まで突き飛ばされた新横綱がすぐ側に迫る一幕も
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(右・時事通信フォト)
「言いふらしている方は1人、見当がついています」田久保真紀氏が語った証書問題「チラ見せとは思わない」 再選挙にも意欲《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、夫の音楽家・塩入俊哉氏(時事通信フォト、YouTubeより)
「結婚前から領収書に同じマンション名が…」「今でいう匂わせ」参政党・さや氏と年上音楽家夫の“蜜月”と “熱烈プロデュース”《地元ライブハウス関係者が証言》
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(共同通信/HPより)
《伊東市・田久保市長が独占告白1時間》「金庫で厳重保管。記録も写メもない」「ただのゴシップネタ」本人が語る“卒業証書”提出拒否の理由
NEWSポストセブン
7月6~13日にモンゴルを訪問された天皇皇后両陛下(時事通信フォト)
《国会議員がそこに立っちゃダメだろ》天皇皇后両陛下「モンゴルご訪問」渦中に河野太郎氏があり得ない行動を連発 雅子さまに向けてフラッシュライトも
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、経世論研究所の三橋貴明所長(時事通信フォト)
参政党・さや氏が“メガネ”でアピールする経済評論家への“信頼”「さやさんは見目麗しいけど、頭の中が『三橋貴明』だからね!」《三橋氏は抗議デモ女性に体当たりも》
NEWSポストセブン
かりゆしウェアをお召しになる愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《那須ご静養で再び》愛子さま、ブルーのかりゆしワンピースで見せた透明感 沖縄でお召しになった時との共通点 
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏(共同通信)
《“保守サーの姫”は既婚者だった》参政党・さや氏、好きな男性のタイプは「便利な人」…結婚相手は自身をプロデュースした大物音楽家
NEWSポストセブン