第74回エミー賞ドラマシリーズ部門で『イカゲーム』(Netflix)は6つの賞を獲得。授賞式で主演男優賞のイ・ジョンジェ、監督賞のファン・ドンヒョク監督(AFP=時事)
多くの視聴者もうんざりしているのでは
それから半年、筆者のもとに冒頭のプロデューサーから連絡があった。
「今年のエミー賞、『イカゲーム』でしたね。6冠ですよ。70年以上の歴史の中で韓国のドラマが獲った、凄いことですが、複雑な気持ちですね」
エミー賞は「テレビドラマのアカデミー賞」ともいえる最高の栄誉、韓国のVODオリジナル作品が非英語圏で初のノミネートどころか初受賞となった。それも監督賞、主演男優賞、視覚効果賞、ゲスト賞、スタントパフォーマンス賞、プロダクション・デザイン賞の6冠に輝いた。複雑な気持ちとのこと、やはり同じドラマを手掛ける者としての感情か。
「それもありますが、やはり予算がきちんと現場に下りてきて、作品を完成させるために官民一体で総力を上げている姿勢が見えることですね。現場からすればわかりますよ。この作品は、作品と関係ないところで私腹のために巨額の金を盗む奴がいなかった作品だ、と。個人的にはあまり好きな国ではありませんが、昔はともかく今の韓国エンタメは本当に凄いし、素晴らしいと素直に思います」
監督のファン・ドンヒョクは日本の『賭博黙示録カイジ』や『バトル・ロワイアル』を読んで「自分が家族のために参加したならどうしただろう」という視点で『イカゲーム』の脚本を書いて売り込んだが、誰も相手にしなかった。しかしネットフリックスは採用した。それも映画1作ではなく、オリジナルドラマ9話のシリーズものとして。
「テレビ局や映画会社、大手代理店が案件を決めて大手芸能事務所に割り当てて、そこにいくつもの中小代理店、ブローカー、謎のよくわからない人も入ってきて、それから仲良しだったり言う事聞きそうだったりする監督や脚本家で主要スタッフが決まり、さらに大手レコード会社が作品二の次でミュージシャンやアイドルグループの曲をねじ込む、そんなドラマうんざりですよ、多くの視聴者もそう思っているのではないですか」
実際の話はもっと具象性のある話だが、あえてわかりやすく筆者が書き換えている。これがすべてではないしすべてが当てはまるわけでもないが、おおむね日本のテレビドラマにはついて回る話である。
「でもね、本当は韓国がどうとか、関係ない話なんです。なぜなら中抜きをしまくってるのは日本人、敵は日本人なんですから」
確かに、今回の『イカゲーム』がエミー賞を総なめにしたことも、2020年に『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞を受賞したことも日本には関係のない話。今回はあくまで証言してくれているプロデューサーの畑であるドラマに限った話とするが、それにしても、なぜ金が現場に下りて来ないのか。
「まずこの業界には『よくわからないが力のある人』というのがいます。業界では知られていても一般的には無名で、業界の人ですら知らない人は知らないという実力者です。そういう人や事務所があって、間に入るのです」