第92回アカデミー賞授賞式で、作品賞など4冠に輝いた「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督(AFP=時事)
中抜きは日本病、というのは筆者も以前から言及してきた。しかし、わかっているのに誰も手がつけられない。内輪で話せばみな知っていて「誰が抜いた」「どこが抜いた」となるのに表向きにはだんまりとなる。2022年6月、公正取引委員会がソフトウェア開発の下請け企業にヒアリングしたところ「中抜き」を25%の下請けが認識しながらも受注していた。認識していることを正直に話すだけマシで、実際はもっと多いだろう。これはITの話だが、日本のあらゆる業種で同様の事態が野放しとなっている。
「にらまれたら仕事がなくなる、業界に居場所がなくなるってのもあると思います。満足な金でなくとも仕事を請けたいと思う中小企業や個人は多いですからね。実際にそうならなくても「それが仕事だから」「そういう業界だから」と目をつぶる。で、下に下にリスクもコストも押しつけることになります。これはドラマ制作に限った話しではありませんがね」
アニメーターなどまさにそうだろうか。エンタメに限らなくとも建設、物流、情報産業などあらゆる日本の産業にいえることだろう。現場に金が来ない。誰かが金を持っていく。せっかくのVODによる巨額投資も、日本ではいつも通りの中抜きがおこなわれ、結局のところ末端は『これまでの相場からして、だいたいこのくらい』で作らされる。日本の30年間ほぼ横ばいの賃金みたいだ。まさに「日本病」だ。
「期待したんですけどね。ようやく日本も海外ドラマのような良質の大作を作れると。もちろん私たち制作の力不足もあるでしょうが、金が回ってこないのは事実です」
本旨ではないので詳しくは書かないが、しつこくうるさい韓国によい感情を持たない人は多いと思う。日本のパクリ、くだらない、自国が小さいから海外に売るしかない、まあ感情は好き好きだ。しかしそれと我が国のエンタメの問題はまったく関係ない。そもそもあらゆる新興国に抜かれ続けているのだから韓国がどうこうでもない。
「韓国がどうこうじゃないですよ。単なる日本の問題です」
それでも彼が『イカゲーム』の受賞を引き合いに連絡してきたのは、悔しさと同時にそんな日本に対する「あてつけ」の意味もあるのだろう。だったら「エンタメの中抜きを何とかしろ」「自浄作用はないのか」と言われればもっともだが、何らかの業界で働いている限り誰しも自分の業界でこうした中抜きを知っていて、先の調査の結果同様「見て見ぬふり」をしているだろう、勤め先によっては間接的、あるいは直接的に中抜きに加担しているかもしれない。しかしどうすることもできない。日本全体がこの「中抜き」問題に病んでいる。まさに「日本病」、国を頼るにも、アベノマスクはもちろんコロナワクチンの配送や給付金すら中抜き――まさに「いまだけ金だけ自分だけ」の国であり、国全体の病いである。
「たかが『イカゲーム』で大げさな」「テレビドラマなどどうでもいい」「アニメなどどうでもいい」ではなく、中抜きという病いは日本の写し鏡だ。新しい仕組みが生まれても必ず中抜きが寄生する。国家ぐるみでそれをしていたがゆえの東京2020年オリンピック「逮捕祭り」もそうだが、いまこそ私たち日本人が、自分たちの問題として不必要かつ過度な中抜きを排除する声を上げなければ、この国は重症どころか、本当に死んでしまう。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。